記事の冒頭は「世界の投資家が抱く日本への期待は本物だ」です。経済、株価の見通しは断定は禁物です。まともな経済専門紙「そこまで言ってしまっていいのか」との印象を受けます。

「・・・次は日本企業の番だ。市場の期待に応えて改革し、成長するかが株高のカギを握る。高望みではない」と続きます。証券会社ならともかく、「高望みではない」とは、また持ち上げたものです。

PBR(株価純資産倍率)にも触れ「PBR1を割っている93銘柄でPBRを1倍にする、つまり株価を帳簿上の価値に戻すだけで、日経平均は3万6154円と試算できる。89年に市場最高値3万8915円が視野に入る」と。そうなるかならないかではなく、報道機関がそこまで煽るのは行き過ぎです。

「企業が輝けば、日本株が海外投資家の資金を引きつけて強い円が帰ってくる。強い円は企業の海外投資家を支え、企業をもっと魅力的にする。市場が教える日本巻き返しの処方箋」という、美文調の見取り図も示す。これではマネー市場の応援団の記事です。

11日付では「脱『日銀頼み』進む」の見出しで、「海外投資家と日本企業の変化が歴史的な株高を生んでいる」、「海外勢が2年ぶりに買い越しに転じた」と。この段階で「歴史的」とまでいいうのは早すぎる。

中国がデフレになりかけ、投資先として安全保障上の懸念もあり、マネーの中国回避が進んでいると、日経の別の記事を読んだことがある。マネーが中国の代わりに日本に向っている。それとの関係はどうなのか。

日銀がデフレ対策でETF(上場投信)を大量に買い込み、全体の7%に達します。竹馬に乗った株高です。「少しづつでも売却し、株式市場の正常化のチャンスにする」とか、せめて「株高が続けば、大規模金融緩和の出口で発生するであろうマネー市場の混乱回避になる」とか、そのくらいのことを指摘するのがジャーナリズムの仕事です。

円相場は1㌦=145円(11日)と、依然として円安水準です。輸出の多い大企業の利益が増えており、それが企業収益を好転させ、株高の一因となっている。大規模緩和の正常化の過程では、日米金利差が縮小し、円高要因となる。今の円安もまた、株高にとっての竹馬です。

日経は昨年4月、来日した国際的な投資家・バフェット氏とのインタビュー記事を1面トップで扱い、「日本株への投資を拡大する。金融不安は買いの好機だ」との発言を紹介しました。3面に関連記事、8面に発言要旨と、株高を期待した破格の大展開です。

まるで証券界のインサイダーのようでした。株高になると日経は売れる、バブルになると、日経はますます売れる。

機関投資家、ファンドの資金源は日本の超低金利のカネです。円建てで調達した資金を株式投資に回せば、儲けが大きい。そんなチャンスを外国投資家に与え、日本の消費者は円安による物価高に苦しむ。そのような構図に釈然とした思いを持つのは私ばかりではないでしょう。

編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2024年1月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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