(4)壁対策

コロナ禍を脱し、マクロ経済が上向くとともに、人手不足が深刻な状況となり、専業主婦(夫)ら被扶養者の第3号被保険者が厚生年金・健康保険の負担を避けるため就業調整する「106万円の壁」「130万円の壁」が問題視されるようになった。そこで政府はこうした壁対策の費用として、雇用保険から捻出することにしたのは、記憶に新しいだろう。

2年後の年金制度改革までの「つなぎ対策」であるとはいえ、年金制度の失敗を雇用保険で糊塗するのだから、空いた口が塞がらない。しかし、現在の厚生労働行政はこれを何とも思ってはいないらしい。

(5)こども保険

2017年3月、小泉進次郎議員を中心とする自民党の若手議員が「こども保険」創設に関する提言をまとめた。具体的には、まずは、厚生年金や国民年金の保険料の料率を0.1%引き上げ(国民年金の場合、160円/月)、それを原資に、就学前の乳幼児を抱える家庭に給付する児童手当を5000円引き上げ、次に、さらに保険料率を0.5%引き上げ(国民年金の場合、830円/月)、児童手当を25000円引き上げることで、幼児教育と保育の実質無料化を達成しようという政策だった。

このこども保険の創設に奔走した小泉氏と並ぶ中心人物の一人が、岸田内閣発足以降内閣総理大臣補佐官(国内経済その他特命事項担当)として岸田総理を支え、現在、岸田内閣の内閣官房副長官を務める村井英樹議員であることは、なぜ「異次元の少子化対策」の財源として当然のように社会保険の一つ、公的医療保険が浮上してくるのか合点がいくだろう。

社会保険に対していまほど批判や監視の目が向いていなかた当時ですら拒否された案を引っ張り出してくる胆力には敬意を表したいものだが、こども保険の焼き直しの子ども・子育て拠出金も、やはりダメなものはダメ、断固拒否すべきだ。

「異次元の少子化対策」の財源は高齢者への「仕送り」から捻出せよ

このように、社会保険のこれまでの歴史を振り返れば、目的外使用の歴史とも言える。

しかし、本来、社会保険はあくまでも社会で対応すべき「リスク」に限定すべきである。

少子化対策や子育て対策は、消費税法上社会保障目的税と位置付けられる消費税によって財源を確保すべきであるところ、岸田総理が早々に消費税の引き上げを凍結したため、それができないことで財源確保が迷走しているきらいも否定できない。

しかし、社会保険料であろうが消費税であろうが、これ以上の負担増は現役世代、就中結婚予備軍、出産予備軍、子育て中世代の生活を直撃するので、少子化はさらに加速する可能性が高く、逆効果となるだろう。

残された財源は、医療保険における現役世代から高齢世代への支援金の削減が適切である。具体的には、厚生労働省の資料によれば、2020年度では、高齢者医療保険の財政には、現役世代から前期高齢者に3.0兆円(協会けんぽ1.5兆円、組合健保1.5兆円)、後期高齢者に3.9兆円(協会けんぽ2.0兆円、組合健保1.9兆円)、合計6.9兆円もの「仕送り」がなされているので、15%程度削減できれば1兆円は確保できる。

出典:厚生労働省資料

少子化対策の財源を全世代で負担するというのであれば、高齢世代も応分に負担できる医療保険の仕送り削減が最適だろう。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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