この後何が起きるのか、というと半年以内にTikTokを所有するバイトダンス社にアメリカ事業を第三者でアメリカに敵対していない国が所有する企業に売却することを求めます。問題はバイトダンス社にとって極めて大きな事業ウエイトなので拒否する可能性が高い点です。たぶん、訴訟をして時間稼ぎするでしょう。またバイトダンス社の米国事業の売却は中国政府の許可が必要で、中国政府が「はいわかりました」と簡単に引き下がることはないのであります。私が想像するに中国国内で活動するアメリカ企業の誰かが犠牲になる公算が高いと思います。それは中国が「目には目を、歯には歯を」のポリシーが極めて強く弔い戦が確実にあるからです。
私は中国の味方をしているわけではありません。ただ、アメリカは時として毒されていることがあるのが気になるのです。実はこの件で気に入らないことがあります。前財務長官だったムニューシン氏が旗振りになり、すでにTikTok買収のための投資家集めの活動を始めています。そのムニューシン氏がTikTokを「素晴らしいビジネスだ」と述べ「米国の企業が所有すべきだ」としているのです。これ、おかしいですよね。「あいつやるじゃないか、なら、あいつを俺たちのモノにしてしまおうぜ」なのです。これは私にはアメリカ人の驕りとしか映らないのです。
なぜ、私がこの話題を上げたか、といえば日本製鉄のUSスチールの買収の雲行きが急速に悪化しているからです。バイデン大統領が昨日「USスチールは1世紀以上にわたって米国を象徴する鉄鋼会社である」よって「国内で所有・運営される米鉄鋼企業であり続けることが重要だ」と述べているのです。これってムニューシン氏が「素晴らしいビジネスだ、だから米国企業が所有すべきだ」という論法と微塵たりとも違いがありません。バイデン氏の発言は明白に対米外国投資委員会(CFIUS)に対する審査への実質介入であり、同委員会は忖度し、買収を否決する可能性が高くなってしまいます。既にトランプ氏も即時反対としており、大統領選の前でも後でもその方針に変化がないなら「拒否!」がCFIUSの心地よい判断になるはずです。
これは何を意味するか、日経のThinkに鈴木一人教授が「経済合理性よりも、感情的な問題が優先」と述べていますが、まさにこれなのです。バイデン氏にとっては経済合理性より労働組合の票が欲しいわけです。想像するに日鉄と日本政府によるロビー活動は不調だということでしょう。岸田氏の訪米はその行方がより鮮明になったころです。どういう話をするつもりでしょうか?
アメリカは昔はもっとオープンでおおらかでありました。そんな牧歌的な時代ではない、と言われればその通りなのですが、中国だけでなくアメリカも全く同じ思想的トリックに陥っているのです。それは「自前主義」です。これは極めて憂慮すべき事態といってよいでしょう。TikTok良し悪しのレベルではなく、圧倒的多数で可決してしまうアメリカが私には恐ろしいのです。まるで新興宗教の説法に完全にはまってしまったような感すらします。
歴史は繰り返すのであれば、西側諸国でアメリカ外しが出てきてもおかしくない気がします。それぐらいアメリカの思想は過激になったのは頑なな習近平氏の体制をアメリカが見たことや、トランプ氏の挑発的な発言にすっかり耳慣れしてしまったこともあるでしょう。よって私はトランプ氏が再度トップに立てばアメリカを救う部分があるも、失う部分のほうがはるかに大きいとみています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年3月15日の記事より転載させていただきました。
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