官民癒着のガラパゴス体質
若江は続ける。
日本の産業政策も改めて検証されるべきだろう。経済の新陳代謝を後押しし イノベーションの芽を育てるための政索的な対応はなされてきたのか。むしろ、既存産業の保護に傾注するあまり、新産業の創出を怠ってきたのではないかー (中略) 製造業での成功体験が鮮明すぎて、「日本はものづくりの国」という意識を変えられなかったとはよく指摘されるところだ。田中も「いつまでもソフトウェアはモノを動かすためのオマケという意識が抜けなかった」と分析する。
ソフトウェアなしにはコンピューターは動かない。しかも、ソフトウェアはオンラインで簡単に配布でき、一度開発すれば無限にコピーでき、著作権法で守られている。「限界費用が限りなくゼロに近くて、ものすごく効率がいい。だから ソフトウェアを自社で持っている会社はうまくいきましたよね」。例えば 独立系システムインテグレーター のオービックは自社開発の会計ソフトなどパッケージソフトが好調で、時価総額は1兆 8000億円。これはNECより高い。
田中はさらに厳しく指摘する。「日立、NEC、富士通は、ソフトウェア会社に転換すべきでした。転換できないなら潰れて潰れるべきだったんじゃないでしょうか」。 (中略) 「ソフトウェアは コピーすれば簡単に大量生産できます。にもかかわらず、わざわざ一件一件カスタマイズした割高なシステムを作り上げて売って回って、利益を上げようとする。要はソフトを売っているのではなく、ヒトとモノを売っている。ソフトウェア産業のような顔をしたモノづくり産業のままなんです」
政府にも、産業界に構造変革を迫らないまま、むしろ永らえさせるべく手助けしてきた罪があるだろう。年間2兆円に近い国や地方自治体の IT調達の多くは、IT ゼネコンと化した大手ベンダー、NTT、日立、NEC、富士通などの各グループが受注しているのである。これがベンダーロックインを招き、割高な発注となっていることは 度々問題とされてきた。21年9月にはデジタル庁が発足するが、田中のこの苦言をどう聞くか。
「ソフトウェア産業と、ソフトウェア製造業は全く違う商売。だが、日本ではソフトウェア製造業ばかりに金が集まるので、そこに安住し、本当のソフトウェア産業に生まれ変わろうとしなかった。IT企業を名乗りながら、売っているのはモノと人。ソフトウェアは海外からの借り物のまま。これではいつまでもイノベーションが生まれない」