告発者の情報の評価
検証が済めば、この情報の評価をしなければならない。
筆者の結論は、「この情報はある程度の信ぴょう性はあるが、対日侵攻の高いリスクを考えれば、実現性に乏しく、実際に真剣に練られた作戦とは思えない。例え検討されたとしても、あくまでも幾つかの選択肢の一つとして参考程度に過ぎなかったのではないか。731部隊の資料を開示した反日情報キャンペーンも、実際どれほどの効果があったのか疑問が残る」ということだ。
他から伝えられる情報がほぼ無いことや裏付けとなるような情報に乏しく、告発者の単独の情報だけでは、この情報が事実だとする根拠に乏しい。
筆者の疑問点 日本への侵攻は、背後にいる米国との全面戦争を覚悟しなければならず、核戦争の危険性さえある。これほどのリスクを覚悟して戦争を仕掛けるメリットが果たしてあるのだろうか。 日本との間の海上を大量の物資や兵員を運ぶだけの輸送能力や警備能力がロシアには乏しい。陸地つながりのウクライナとは戦闘の装備も準備する物資や兵員も大きく異なる。 日本の海上自衛隊の潜水艦群や哨戒機は極めて優秀であり、最新の装備を持っている。その厳しい監視の目を逃れて上陸部隊を輸送することはかなり困難だ。一回目は成功しても継続的に物資の補給が無ければ、上陸部隊は崩壊する。フォークランド戦争で、アルゼンチンの第二次大戦仕様の中古潜水艦に英国海軍の駆逐艦が振り回された教訓もある。 告発者は、北方領土問題が戦争の争点となっているとしているが、北方領土問題のイニシアチブはロシアが握っており、日本が強引に武力で奪取しない限り、大きな対立点にはなり得ない。北方領土問題だけでは、ロシアの対日侵攻の必然性が説明できていない。 あくまでも推測だが、告発者が辻褄の合う事実をつなぎ合わせて、意図的に作った情報ではないかとの疑いも捨てきれない。最後に、人間の心には、「こうありたい」「こういうのが欲しい」「こうなるべきだ」などのバイアスがかけられており、専門家であっても冷静に情報を検証するのは難しい。企業や官庁などで情報の分析を担う者は、科学的でかつ経験を生かした情報分析を心がけていただきたい。
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藤谷 昌敏 1954年、北海道生まれ。学習院大学法学部法学科、北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科修士課程修了。法務省公安調査庁入庁(北朝鮮、中国、ロシア、国際テロ部門歴任)。同庁金沢公安調査事務所長で退官。現在、JFSS政策提言委員、合同会社OFFICE TOYA代表、TOYA未来情報研究所代表、一般社団法人経済安全保障マネジメント支援機構上席研究員。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2022年11月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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