告発者の情報の検証
情報を検証する過程では、第1に「情報源の特定」(その情報を知りうる身分、立場なのか)、第2に「情報の伝達ルートの確認」(情報の入手が可能か)、第3に「情報内容の検証」(公然情報との比較など)、第四に情報の評価を行う必要がある。
(1)「情報源の特定」だが、通常、情報源の身分や立場は秘匿性が高く、不明の場合が多い。この場合は、FSB職員ということが判明しているのみだが、内部の人間なので情報をある程度入手しうる立場の人物と考える。
(2)「情報の伝達ルートの確認」だが、この場合、人権擁護活動家ウラジーミル・オセチキンが定期的にメールを受け取っており、ベリングキャット代表のクリスト・グローゼフによって分析されて、「FSB(現・元)職員の知人」が「FSBの同僚のもの」と証言している。入手ルートに限っては問題ないが、厳しいFSBの監視を逃れて定期的にメールが可能かという疑問もある。
(3)「情報内容の検証」では、2021年8月にロシアで機密解除された資料を確認すると、確かにヴィシンスキー外相宛報告、スターリン宛報告書、また細菌兵器の開発および使用の罪を問われる日本の戦犯をソ連に引き渡すよう米国指導部に求めたソ連外交文書などが機密指定解除となっていた。
告発者のメール中、「日本の特殊部隊」とは、旧陸軍の石井四郎軍医中将が率いる七三一部隊(関東軍防疫給水部)のことで、中国東北部のハルビン郊外を拠点とし、致死的な生体実験を秘密裏に行うための特別な一大研究施設があった。
この施設では、スパイや思想犯の中国人、ロシア人、朝鮮人、モンゴル人などを「マルタ」と呼んで人体実験を行っており、「ソビエト連邦国民に拷問を与えた」との記述に一致する。また、ハバロフスク裁判で戦犯とされた昭和天皇や石井四郎を引き渡すよう求めたマッカーサー宛の書簡や関東軍司令官山田乙三の尋問調書もあり、告発者の記述と一致する。