会議でのある出来事とは
加藤さんは、搭乗前のミーティングが非常に重要だと言います。フライトのたびに顔ぶれが変わるCAは、毎回全員が集まり、チーフパーサーを中心にサービスの方針を確認してからお客さまをお迎えするからです。ある日の出来事になります。
「ある夏場のフライトのミーティングでのこと。その日は満席で、かつ若いCAが中心でした。私はチーフパーサーとして、サービスを少しでも簡単にすることで、みんなの経験の浅さをカバーし、おもてなしの質を落とさないようにしようと考えました。その取っ掛かりとして、ドリンクサービスの時間を短縮したいと思いました」(加藤さん)
「『今日は、アイスコーヒーに氷を入れずに提供しましょう』。アイスコーヒーは冷蔵庫に入れてあるため、水を入れなくても冷えた状態でお出しできます。 メーカーからも氷なしでお出しできると保証されていました。そのため、このひと手間を省いても問題はないと考えたのです」(同)
ところが、いざアイスコーヒーを出すタイミングになると、加藤さん以外のCAは氷を入れています。他のお客様も出てきたアイスコーヒーを見て、一瞬「あれ?」という表情になります。
あるべきリーダーの姿とは「フライト前に上司から一方的に言われたからといって。そう変えるのは難しいものです。『一番いいサービスをしよう』というお客さまへの気づかいでみんなは氷を入れることを選択したのです。その一件があってから、『聞くことの大切さ』にあらためて気づきました。『満席であってもお客さまにいつもどりのサービスの質を提供すること』が望ましかったのです」(加藤さん)
それまでプレイヤーだったあなたが、管理職としてチームを任された初日。ついつい意気込んで大上段にかまえてしまいました。あまり感心できる行動ではありません。
最低限これだけは大切にしてほしいことは伝えてもいいと思います。しかし、「私が来たからには、日本一を目指す」「前任者の言っていたことはいったんリセットし、私の言うことだけを信じてついてきてほしい」「前職の〇〇商事ではこうやっていた!!」「わかりましたか?」。なんてことを言ってしまうと、部下はかえって身がまえてしまいまうものです。
信頼関係もできていない状況では、発言の真意などまず理解されず表面的な部分しか聞き入れてもらえません。実際、かつて私の上司がそれをやってしまい、とりあえず上司の前では「はい」と返事をしたものの、同僚たちは一様に裏表のある態度をとるようになったのを目の当たり にしたこともあります。
管理職の仕事は、部下を成長させながらチームとしての成果を挙げていくことです。そのためには、まず現状を理解しなければいけません。まず部下について”観察”することが大切なのです。
問題が発生しないようにアドバイスすることは大切です。しかし、やりすぎると部下の主体性を奪ってしまうことになりかねません。観察して各々の方向性が見えてきたら、個別の個人面談をおこない目標設定や問題認識の共有をおこなえばいいのです。いずれにしても、信頼関係の構築が最も大切であることは言うまでもありません。
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
■
2年振りに22冊目の本を出版しました。
「読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)