今回の狙撃事件について、今後さらに詳細が明らかになるでしょう。現時点で言えることは、シークレットサービス(SS)と地元警察の双方に、大きな警護体制の問題があったということです。

筆者は過去にスコープ付きの同型ライフルで200メートルの距離から標的に当てた経験があり、それほど難しくない射撃だと知っています。今回は約130メートルの距離で、スコープ無しでもトランプの頭部を狙え、致命傷を与えられる距離でした。そのような状況で、トランプがいた壇上を見通せる屋上や、脚立を使ってアクセスできる場所に警官がいなかったことは、信じられないミスです。独立調査委員会により真実が明らかになるでしょうが、SS側は同じビル内部に地元警察官がいたと主張し、警察はそれを否定する泥仕合になっています。

JFK暗殺の例を見ても、高所から狙撃銃で狙い撃ちするのは、米国における典型的な暗殺方法です。通常は、壇上を中心にして周りの高台を優先的に特定し、クレーンや垂れ幕を使って前日までに壇上が見通せないようにします。当日は、その屋上や近くの高台にカウンター・スナイパー、つまり警護側の狙撃手を複数配置します。筆者は地対空ミサイルや監視型ドローンも見たことがあります。

今回は警護側の狙撃手が配置されましたが、犯人がよじ登って実際に発砲した屋上そのものが無防備だったのは信じられないミスです。さらに、発砲の数分前にライフルを持った男が屋上にいるのが目撃されていました。警護の警察官が通報を受けて屋上に向かいましたが、よじ登った際に両手を使っていたため、犯人に銃口を向けられた時、反撃できず、制圧もできず退却しました。

ここで最も重要視すべきは、不審な動きがあれば、現場にいた狙撃犯の制圧努力と同時に本部に無線で連絡し、トランプを安全な場所に移動させることです。これは教科書通りの手続きです。複数の食い違う情報がありますが、警察は本部、つまりSSに連絡したものの、SSはトランプを動かしませんでした。そうであれば、この点での責任はSSにあると言えます。

筆者はホワイトハウスを含む多くの警護現場を取材しました。そこでは必ず警護側狙撃手が高台に配置されており、地対空ミサイルや攻撃用ではない監視用ドローンも見られます。今回は狙撃手が犯人の動きを確認しても、上司の許可が出なかったため犯人への発砲が遅れたという情報もあります。

上司にしてみれば、実際は何かの作業員で、狙撃犯ではない一般市民なのに、部下の狙撃手が射殺したとなれば、自分の一生に影響する責任問題になるからさらなる捜査を待てとしたと想像できます。

狙撃手が犯人への発砲許可を求めたのに、SS長官が拒否したという情報がSNSで大きく流れました。シークレットサービス側は筆者の問い合わせにそれを完全否定しました。「嘘」情報を信じてはいけません。

今回のケースで最優先事項は、不審な動きがあれば確認や捜査・尋問の結果を待たずに、トランプをまず壇上から動かすことでした。それをしなかったことが最大の警護側の落ち度です。このミスにより、周りの家族を守ろうとした元消防士が流れ弾で命を落とし、複数の負傷者が出ました。

筆者は安倍元総理の暗殺事件も取材しました。その際、演説場所の選定ミスや、演説していた安倍氏の後ろ側の警戒ミスが目立ちましたが、最大の間違いは、近くにいたSPの反応の遅れでした。

当時はSNSで公開されましたが、今は何故か削除されている映像があります。それを見れば明確に理解できます。最初の発砲音を聞いた直後、すぐに安倍氏を保護するべきでしたが、2秒以上もSPが動かなかったため、結果的に安倍氏の命を救えませんでした。最初の一発目で、SPは安倍氏をすぐに動かすか、自分の体で覆い被さるべきでした。地元警察官にこのようなVIP保護の咄嗟の動きを求めるのは無理です。しかし、それがSPが東京で受けていた特殊訓練の「基本」なのにそれをしなかった。後日、そのSPは号泣したと聞きました。

今回の事件でトランプが助かったのは運が良かったと言えますが、犯人が狙撃に利用したビルの屋上に警護を配置しなかったことや、不審者がいると分かった時点でトランプを動かさなかったことが悔やまれます。

これら多重のミスにより、何の罪もない元消防士が命を落とし、さらに複数の負傷者が出ました。元消防士のご遺族や関係者には心より哀悼の意を表し、すでに1千万円以上の寄付が集まっていると聞いています。筆者も5万円を送りました。心からご冥福を祈ります。(残された妻はバイデンからのお悔やみの電話に出ることを拒否しました。夫はバイデン嫌いでトランプを強く支持していたのがその理由です)

トランプは直前に頭を動かしたことで一命を取り留めました。負傷は気の毒ですが、この事件で彼の勝利が確定したとも言えます。不謹慎で、この読者から非難が殺到するかもしれませんが、筆者はトランプの運が良かったと感じざるを得ません。