環境相の発言に対し、国民党のカロリン・エットシュタドラー憲法担当相は「環境相は連邦州の意見に法的に拘束されており、農業省との合意を図らなければならないとされている連邦省庁法にも従わなければならない。憲法や法律を無視すれば、当然法的な結果を招くことになる。環境相は意図的に憲法および法律違反を犯している。これは極めて無責任であり、異常だ」と述べ、「事案の内容に関わらず、法が法であり続けなければならない。イデオロギーが法を上回ることは決してあってはならない」と強調している。
国民党のノーベルト・トーチニグ農業相も「イデオロギー的な理由から、わが国に過剰な規制と二重の重荷をもたらす法律に賛成しようとしている。連邦州や政府内での調整なしにこれほど広範な政治的決定を下すことは、無責任であり、民主主義的に危険だ。より多くの気候保護と生物多様性のための合理的なインセンティブを設定する代わりに、彼女は禁じ手を用いて国民の生活を制限しようとしている」と厳しく糾弾している。
環境相の独走に対し、極右政党「自由党」は国民党側の主張を支持する一方、リベラル派のネオスは環境相の決意を評価している。州別にみると、フォアアールベルク州、チロル州、ニーダーエースライヒ州、ザルツブルク州など国民党が州知事を出している州では環境相を批判する声が強い一方、社会民主党が政権を握るウィ―ン市やケルンテン州では「自然再生法」に賛成する姿勢を見せてきている、といった具合だ。
ゲヴェスラー環境相は16日の記者会見で「今ためらうことは私の良心に反する。決意と勇気のシグナルを送りたい」と述べる一方、国民党との連立決裂を恐れていないという。ちなみに、オーストリアでは今年9月29日、連邦議会選挙が実施される。ネハンマー現連立政権はあと数カ月で幕を閉じる。そのような事情もあってか、環境相の今回の発言は9月の総選挙を意識した政治的決断ではないか、という声が聞かれる。
参考までに、ドイツの「緑の党」はショルツ政権下で脱原発を主導し、昨年4月、脱原発を実現したが、国民の80%は現在、エネルギーコストの高騰をもたらした脱原発に不満を持っているという世論調査結果が出ている。グリーン政策に伴うエネルギー価格の高騰、競争力の低下はドイツの国民経済に大きな負担となっているのが現状だ。
環境保護という目標は正しいが、それを実行する場合、関係省、産業界、国民との密接なコミュニケーションと啓蒙が不可欠だ。ゲヴェスラー環境相の今回の「自然再生法」への署名意思表明にも当てはまることだ。「最後の世代」の活動を見ても分かるように、「自分たちは正しいことをしている」という信念に固まった「緑の党」関係者の言動は、環境保護という崇高な目標を台無しにする危険性がある。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年6月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。