21世紀に入って環境保護が重要課題であることはほぼ全ての政党が認めるところだろう。環境保護政党「緑の党」の専売特許ではなくなって久しい。中道右派・左派も環境保護政策をその政治目標に掲げていることもあって、「緑の党」は存在感をアピールする必要性を強いられてきた。その結果、その言動が過激化してきている。それを支えているのは洪水など自然災害、気候不順の世界的多発だ。

「自然再生法」の署名を示唆したオーストリアのゲヴェスラー環境相(「緑の党」公式サイトから)

環境保護活動家には「もはや時間がない。このままでは地球が危ない」といった危機感が強い。彼らから「終末への差し迫った焦燥感」といった宗教的使命感すら感じるほどだ。

例えば、「ラースト・ジェネレーション」(最後の世代)と呼ばれるグループは路上を封鎖したり、美術館の絵画にペンキを浴びせかけるなどをして環境保護を訴えてきたが、一般社会からは批判的に受け取られ、活動家の一部は破壊行為、公共秩序の妨害などで逮捕されている。それでも彼らが活動を継続するのは「もはや時間がない」といった終末観的危機感が強いからだろう。社会から反対が強くなるほど、彼らの活動は過激化していく。間違った殉教精神だ(「環境保護活動が『殺人事件』になる時」2023年05月12日参考)。

ところで、オーストリアのネハンマー政権は中道右派「国民党」と「緑の党」の連立政権だ。そして環境相は「緑の党」のレオノーレ・ゲヴェスラー女史だ。同環境相は16日、国民党との話し合いもなく一方的に、「ルクセンブルクで行われるEU環境相会議で自然再生法に賛成票を投じたい」と表明したのだ。

「自然再生法」(Nature Restoration Law)は2050年までに気候中立を達成するためのEUの包括的な気候保護パッケージ「グリーンディール」の重要な部分だ。その上位目標は、生物多様性に富み、回復力のある生態系の長期的かつ持続可能な再生だ。これには、森林の再植林、湿地の再湿地化、より自然な河川流域の維持、そして結果としての生物多様性の保護が含まれる。自然再生法は、環境保護と経済成長を両立させるための重要な施策として位置付けられており、持続可能な未来を目指すEUの取り組みの一環だ。

同法案に対し、一部の農業団体や漁業関係者は、自然再生法案が厳しい規制を課すことで、農地や漁場の利用に制約がかかり、収益に悪影響を及ぼす可能性があると懸念している。特に、農地の転用や漁業活動の制限が経済的な打撃をもたらすと主張している。また、企業や地方自治体は、自然再生法案の実施に伴うコストが増加することを懸念している。特に、自然再生のためのインフラ整備や環境保護活動にかかる費用が大きな負担になるというのだ。一部の土地所有者や開発業者は、法案によって土地利用の自由が制限されることを問題視している。インフラ開発や都市計画において、自然再生法案が新しい建設プロジェクトやインフラ投資を妨げる恐れがあるというのだ。