最近は「加害者」と「犠牲者」が逆転して受けとられるケースが見られる。裁判では「原告」と「被告」が逆転するといったケースはないだろうが、政治的、社会的な現象では結構起きている。問題は、その逆転現象が恣意的に行われる場合は危険だ。同時に、看過できない点は、犠牲者メンタリティの拡大感染だろう。
本題に入る。ロシアのプーチン大統領は昨年2月24日、ウクライナに軍侵攻を命令した時、世界はロシアが侵略者(加害者)であり、ウクライナはその軍事行動の犠牲国だと素早く判断した。その立場は戦争が1年3カ月目に入った現在まで揺るぎがない。一方、加害国のロシアの最高指導者プーチン大統領は9日、モスクワの赤の広場で開かれた第78回対独戦勝記念日の演説で、「わが国は犠牲国だ。西側がわが国を脅かしたからだ。国民は結束して祖国を守らなければならない」と檄を飛ばした。プーチン氏の加害者と犠牲者の区別は世界のそれとは180度違うことが改めて明らかになったのだ。
オーストリア国営放送(ORF)のモスクワ特派員、パウル・クリサイ氏は9日、「プーチン氏はまったく別世界の住人のようだ」と評し、「ロシアのプロパガンダ工作に過ぎない」といって看過できる段階を越え、不気味さすら覚えているようだ。なぜならば、クレムリンの前に集まった8000人余りの軍関係者を前に、プーチン氏は自信をもって語っているからだ。同特派員は、「プーチン氏のパラレルワールド(並行世界)」と呼んでいた。
プーチン氏は、「文明は今日、再び重要な転換点にある。私たちの祖国に対して真の戦争が始まった」と述べ、もはや「特殊軍事作戦」とは表現せずに「戦争」とはっきりと主張し、「西側のエリートは憎しみとロシア恐怖症の種をまきちらし、私たちの国を破壊しようとしているが、私たちは国際的なテロリズムに反撃し、ドンバスの住民を保護し、安全を確保している」と、その実績を強調することを忘れなかった。