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昨年10月、デンマークの自治領グリーンランドの67人の女性たちが1960年代に受けた強制産児制限に対してデンマーク政府に補償を求める書簡を出した。

きっかけは、2022年のデンマーク放送協会(DR)のポッドキャスト番組による報道だった。1966年から70年までにグリーンランドに住む4500人に上る10代の少女及び成人女性に本人の同意なしに避妊リングが挿入された記録が見つかったという。デンマーク、グリーンランドの両政府は調査班を結成し、何があったのかを探る作業が続いている。

調査の結果は2025年5月に発表されることになっているが、女性たちは70代から80代に達し、早急に国が行動を起こすことが必須になってきた。そこで、女性たちを代表する弁護士が一人30万クローネ(約638万円)に上る補償金の支払いを求める書簡を首相官邸に送ったという。

グリーンランドとデンマーク

グリーンランドは18世紀にデンマークの植民地となり、1953年、デンマーク憲法の改正によって本国と対等の立場でデンマーク王国を構成することになった。1979年に自己統治の拡大について住民投票が行われ、自治政府が発足。人口は約5万700万人。その約85%が先住民族イヌイットのカラーリット族である。

産児制限の手術を受けたことを公にした最初の一人ナジャ・ナイバース氏は、学校で避妊器具を入れられたという。彼女自身は子どもを一人産んだが、大部分の女性たちは妊娠できなくなった。昨年になって初めて、合意なく避妊手術が施されたことを知った女性もいるという。

近年、デンマークによるグリーンランドに対する過去の過ちに焦点が当たっている。そのうちの1つが1951年、社会的実験としてグリーンランドに住むイヌイット族の子供たちを家族から引き離し、デンマーク本土に移住させた件である。

子どもたちは当時4歳から9歳で、「デンマーク人」として再教育された。デンマークの家庭に入るのではなく、孤児院に入れられてデンマーク語を話すように言われ、グリーンランドの家族や親せきとはほとんど顔を合わせることはないままに生活した。

1945年に第2次世界大戦が終了すると、世界各国は同年10月に発足する国際連合に加盟するようになり、非植民地化が進んでいくが、1951年当時のデンマーク政府は国連に対しグリーンランドはデンマークの一部であることを示す必要があった。

2022年3月、メッテ・フレデリクセン首相は子供たちの中でまだ生存中の6人と面会し、謝罪した。首相は2020年に謝罪の書簡を送っていたが、直接会うのはこの時が初めてである。

家族を離れ離れにさせてデンマークに移住させることは「非人間的で、不合理であり、心無い行動でした」(首相)。「両親は子どもを旅行に出すことについては合意したが、それが何を意味するかはほとんど知らなかった」と今は成人となった一人が語っている。

南アフリカの優生学と避妊手術

現在の私たちの感覚でば、合意なしに家族と引き裂かれる、あるいは強制的に産児制限をする行為などは言語道断であり、非人間的と思えるが、このような認識が出てくるまでには時間がかかった。