3月9日に法政大学で行われた「日本文明」研究フォーラムのイベントが、論壇チャンネル「ことのは」で視聴可能になりました。有料会員限定ですが安い(廉価なコースは月690円!)ので、たぶん損しないです。番組へのリンクはこちら。

苅部直先生の著書『小林秀雄の謎を解く』(新潮選書、2023年)をめぐる合評会で、私は産経新聞にも書評を寄せています。こちらは無料なので読んでみて、興味を惹いたらフォーラムの報告はまた別の角度でやっていますので、会員になって見てあげてください。あっ、あんま知られてないけど僕むかし学者だったんで、久しぶりに「学会調」で話してるからレアですよ。

例によって以下、おまけの軽いエッセイです。

小林秀雄の文章としてはたぶんあまり有名でない、「モオロア『フランス敗れたり』」という書評文がある。朝日新聞に載ったのは1941年の1月で、前年6月にフランスはナチス・ドイツに降伏していた。ちなみに平成に一度邦訳が復刊になったので、書籍自体もわりと容易に手に入る。

著者のアンドレ・モーロワはフランス人で、その頃は日本も含めてインテリに人気の作家・歴史家だった。小林によると、1935年にチャーチル(当時は保守党内の異端派)から「小説や伝記を書く暇があったら、フランスの空軍力増強を求める時評を毎日書け」と言われていたらしい。後の英国首相に直接アドバイスをもらえるほどの、相当な世界的知識人だったわけだ。

しかし小林はこの本も、また著者のモーロワのことも好きでなかった。お得意の逆説的な決め台詞で、こう貶している。

彼は嘘の事実は書かなかったろう。しかし本当の話だけ寄せ集めて、嘘の歴史を作ることも易しいのである。