サンチェス首相の携帯が盗聴されていたというのは

盗聴について多少説明が必要である。以下にそれを説明する。

2022年5月、スペイン政府はサンチェス首相とベゴーニャ夫人それに内務相、国防相、農業相のそれぞれ携帯電話が何者かによって盗聴されていたことをスペイン政府が明らかにしたのである。

サンチェス首相の携帯からは2.57ギガバイトに相当する容量の情報が盗聴されていたとしている。それも2020年10月から2012年12月までの間の盗聴とされている。(4月24日付デジタル紙「エル・デバテ」から引用)。これを時間にすればおよそ200時間に相当する時間が盗聴されていたことになるという。

これを受けてマドリードの裁判所はこの捜査を開始した。ところが、スペイン政府からの裁判所への協力が不十分で捜査を前に進めることができず、この件は結局保留となった。

ところが、ペガサスで同じく盗聴の被害を受けていたフランスが盗聴に関する証拠資料をスペインの犯罪を専門に扱うアウディエンシア・ナシオナル裁判所に4月23日に提供したのである。早速、スペイン諜報局はこの分析を開始した。即ち、サンチェス首相が引き籠りを始めたのはその翌日からである。

当初、この盗聴者はモロッコの諜報機関によるものだとされていた。というのも、2022年4月にスペイン政府は突如西サハラの領有権がモロッコにあるという声明を発表したからである。

それまでスペインは西サハラの住民自身が投票で独立かモロッコの自治区となるか決めるべきだという方針を半世紀貫いて来た。にも拘らず、サンチェス首相がモロッコを訪問した後、180度スペインの外交を転換させてモロッコの領土だと発表したのである。それもサンチェス首相の独断によるもので、閣議でもまたスペイン議会でもその承認を得るべく議題にはならなかった。

また、ジブラルタルを挟んだ沿岸地域から麻薬のスペイン入国を阻止すべくエリート治安部隊をマルラスカ内務相はそこから撤退させた。その背景にあるのは、モロッコはハシュシュ(大麻樹脂)の生産では世界の50%を生産しており、スペインはその重要な顧客ということである。それがこれまでスペインのエリート治安部隊の活躍によって、スペインへの密輸出が妨げられていたということなのである。

治安部隊がいなくなったことで、それを容易にスペインに密輸出来るようになった。即ち、ペガサスによって盗聴されていた内容の中身にサンチェス首相が不利に置かれる何かが隠されているはずだということなのである。だから、政府は裁判所に協力しない姿勢を貫たと理解されている。

盗聴の内容が明らかにされる機会の到来

ところが、今回フランスが4月23日に盗聴に関する資料をスペインの裁判所の方に提供したということで、この解明がある程度明らかにされる可能性があるということだ。

だから、その翌日24日サンチェス首相は妻が起訴される可能性が出て来たことを表ざたの理由にして、引き籠りを決めたのである。そして、籠った5日間で裁判所が入手した情報について彼自身が彼の人脈を介して追跡していた可能性がある。

しかし、事態はサンチェス首相を不利な立場に追い込む方向に進んでいる。実際、これまでこの件の解明に協力を避けて来たイスラエルが突如協力する姿勢にかわったからである。ペガサスを開発したのはイスラエルのNSOグループだ。

イスラエル政府は最近のサンチェス首相がハマスに同情し、またパレスチナ国家承認へ数カ国を訪問してその動きを見せていることにイスラエル政府は不愉快に感じていた。そこで、これまで保管していたサンチェス首相の携帯電話の盗聴内容をフランスを介してスペインの裁判所に提供してサンチェス首相の失脚に動きを開始したということらしいのだ。

スペインの治安警察の警備隊(UCO)にはこれについての情報は既にフランスから渡されているという情報もある。実際、治安警察はサンチェス首相と内務相の政府から十分な保護を受けていないとして、これまで政府に対しては治安警察は強い不満をもっており、彼らは結束して政府には情報を断固漏らさない姿勢でいるとされている。

近い将来その盗聴された内容から、サンチェス首相はモロッコに対しスペインに不利になるような言動をしていたことが明にされる可能性がある。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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