EUのジョセップ・ボレル外務・安全保障政策上級代表=外相のスポークスマンは、「EUはシリャノフスカ=ダフコヴァ新大統領が国の憲法上の名前を使用しなかったことを遺憾に思う。EUは、ギリシャとのプレスパ協定を含む、既存の法的拘束力のある協定が完全に遵守されることが重要だと理解している」と述べている。

上記の話を聞いて、日本の読者の中には日韓両国の慰安婦問題に関する長く、困難な交渉を思い出す人がいるだろう。岸田文雄外相と尹炳世韓国外相(いずれも当時)は2015年12月28日、ソウルの外務省で会談し、慰安婦問題の解決で合意に達した。会談後の共同記者発表で、岸田外相は、「日韓両政府は、慰安婦問題について不可逆的に解決することを確認するとともに、互いに非難することを控えることで一致した」と表明した。

日韓合意の報を聞いた日本人の中には当時、「やれやれこれで解決した」と安堵をつく国民もいたかもしれないが、日韓請求権協定で解決済みの問題を政権交代ごとに蒸し返してきた韓国の統治能力に懸念を有する国民も多かったはずだ(「韓国政府は統治能力を示せ」2015年12月29日参考)。

ひょっとしたら、ギリシャ国民も日本国民のように感じ、「北マケドニア政府の統治能力が問われる」と考えるかもしれない。いずれにしても、北マケドニアの議会選と大統領選の結果から、「同国のEU加盟への道は遅れ、ギリシャやブルガリアとの関係を悪化させる危険性が出てきた」と受け取られている。新大統領の旧国名による宣誓式は図らずもそのことを追認してしまった。

イタリアの法学者チェーザレ・ベッカリーア(1738~94年)は著書『犯罪と刑罰」の中で、「歴史のない国民は幸福である」と書いている。「歴史」のない国民が幸福か否かは別として、「歴史」がなければ、いがみ合いや紛争は少なくなるかもしれない。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年5月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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