ドレスデンでの演説はマクロン氏のドイツ訪問のハイライトだ。マクロン大統領は「ヨーロッパは現在、3つの大きな課題に直面している。『平和』、『繁栄』、『民主主義』の課題だ」というのだ。

①ヨーロッパは長い間、平和の保証人であったが、ロシアのウクライナ侵攻以来、ヨーロッパには再び戦争が起きている。ロシアは大陸全体を攻撃している。ヨーロッパ人は共同防衛と安全保障の構造を築くべきだ。その際、ナショナリズムに陥ることなく、ヨーロッパ人として断固として行動すべきだ。ヨーロッパは独自の技術、軍事技術、イノベーションを構築する必要がある。

②ヨーロッパは繁栄、成長の夢の場であり、また寛大な社会制度の場だが、ヨーロッパは現在自らの成長を達成できない危険に直面している。人口動態も課題だ。新しい成長モデルを構築する必要がある。それは成長と気候保護の間で選択しなければならないということではない。我々は欧州の予算を倍増させるべきだ。投資市場への資金調達だ。

③現在の民主主義は、独裁的な傾向が強まってきている。我々は目を覚まさねばならない。ヨーロッパと民主主義への取り組みを強めるべきだ。我々はこれらの課題を共に克服することができる。ドイツはフランスを頼りにできる。フランスはドイツを頼りにしている。ヨーロッパは我々を頼りにできる。我々はヨーロッパを頼りにしている。

最終日の28日午前、マクロン大統領はミュンスターでヨーロッパへの貢献が評価され、ウェストファリア国際平和賞を受賞した。同日午後からは訪問最後の行事として、ベルリン近郊のメーゼベルク城でショルツ独政府関係者と会合し、今後の政治課題について意見の交換を行う。なお、フランスとドイツ両国政府はロシアに対抗するためにウクライナへの軍事支援を継続する必要性があること、欧州理事会の全会一致原則を破棄し、一部の決定には27カ国の政府のうち3分の2の加盟国の賛成で十分とするなど、EU理事会の刷新の必要性などで既に合意しているという。

ドイツのメディア報道を見る限り、マクロン大統領のドイツ訪問は一般的に好意的に受け取られている。若く、ビジョンに溢れるマクロン大統領の演説を聞いていたドイツのジャーナリストは「オバマ米大統領のような雰囲気がある」と報じていた。派手なパフォーマンスからはほど遠いショルツ首相の地味で実務的な演説を聞き慣れてきたドイツ国民にとって、マクロン氏の演説は刺激的であり、表現力も豊かであることは間違いない。ただし、マクロン氏は教会の説教者ではないから、マクロン氏の政治指導者としての評価はやはりその政策の実行力で決まると言わざるを得ない。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年5月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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