一方、AFP通信によると、ウクライナの強力な軍事支援国英国のキア・スターマー新首相は「ウクライナは英国から供給された長距離ミサイルをロシアの軍事目標に発射できる。英国の軍事援助は防衛目的だが、防衛目的のためにどのように使われるかを決めるのはウクライナ側だ」と語ったという。なお、英労働党政権はウクライナ政策では保守党前政権と同じ政策であることを確認している。
ところで、ミュンヘン安全保障会議(MSC)の元議長、ヴォルフガング・イシンガ―氏は10日、ドイツ民間ニュース専門放送ntvとのインタビューで、「ロシアのプーチン大統領はNATO加盟国に対し、ウクライナへの武器支援で常にレッドラインを提示し、これを超える軍事行動はロシアへの侵略と見なす」と通告してきた。それを受け、欧米諸国はロシアのレッドラインを超えれば、戦争がエスカレートすると警戒してきた。しかし実際は、ロシア側はNATOとの軍事衝突など願っていないから、ウクライナから飛んできたミサイルがロシア領土に届いたとしても、NATO加盟国に軍事攻勢をかけるといった兆候はこれまで見られなかった」と説明。そして「NATO側は逆にロシアに対し、ロシア軍が今回のようにキーウの小児病院など民間施設を攻撃するならば、NATOはウクライナ側にさらに強力な武器を提供する用意があると述べ、ロシア側に明確なレッドラインを示すべきだ」と強調した。
これは非常に大胆な指摘だ。プーチン大統領は頻繁に核兵器の使用すら示唆し、ウクライナを軍事支援するNATO側を威嚇してきた。イシンガー氏は「レッドラインを提示するのはロシア側だけではない。NATO側もロシア側に明確なレッドラインを示し、ロシア側がそれを超えた場合、軍事行為も排除しないといった強い姿勢を示すべきだ」というのだ。ロシアの軍事行動に対して、NATO側はその軍事的優位性を示し、ロシア自身が侵略を抑制せざるを得なくなるように仕向けるべきだというわけだ。
同氏はまた、ウクライナのNATO加盟問題については、「不必要な議論だ。NATO32カ国のうち、ハンガリーやトルコが加盟に反対することが明確な時点でウクライナの加盟問題を協議することは無駄だ。NATO首脳がウクライナの加盟を決定したとしても、加盟国の議会で反対することが十分に予想される。NATO加盟国の不一致が暴露され、プーチン氏を喜ばすだけだ」と指摘している。
なお、NATO加盟国の軍事支出については「NATO加盟国は国内総生産(GDP)比2%以上の国防費支出を目標にしているが、NATO加盟国は2%という数字に拘ることはなく、防衛力を増強すべきだ。なぜならば、ウクライナを防衛するためだけではなく、欧州をロシアの軍事侵略から守るために必要だからだ」と述べている。イシンガー氏の主張はいずれも正論だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年7月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。