ロシアに対して苦戦を強いられてきたウクライナは、ロシア領内のクルスクに侵攻しました。現在、ウクライナが支配しているロシア領は、ロシアが占拠しているウクライナ領の面積に比べると、ごく狭い範囲にとどまっています。
相手の国土をどれだけ広く侵食するかという「領土戦争」の観点からすれば、下に示した戦況図を見れば分かるように、この戦争におけるロシアのウクライナに対する圧倒的な優位性は、今でも変わりません。それと同時に、われわれはウクライナが核武装国のロシアの本土に越境攻撃を行ったことをさまざまな角度から検討することにより、長期化するウクライナ戦争をより深く理解できるでしょう。
この記事では、①消耗戦に対するクルスク攻勢のインパクト、②ロシアの核抑止の失敗、③クルスク攻撃とバーゲニング・パワーという3つの視点から、ウクライナの大胆な軍事行動の意味を考えてみることにします。
消耗戦に対する人口の影響ウクライナ戦争の特徴は「消耗戦」です。これは交戦国の双方が、相手の国力や戦力をすり減らす戦いだということです。消耗戦の行方を左右する重要な要因は、戦闘で死傷する大量の兵士や武器をどれだけ補充できるか、ということです。
これらのファクターでは、クルスク攻勢前後でも、ロシアがウクライナに対して圧倒的な優位性を保ち続けています。ロシアの人口は約1億4千万人です。他方、ウクライナの人口は約4.1千万人です。ロシアは人口において、ウクライナに約3.5倍の優位性を持っているということです。
さらにウクライナにとって悪いことは、キーウが動員できる人口が、実際には、これよりもグッと少なくなることです。なぜならば、ウクライナの総人口の内、約4分の1が国内外に避難しているからです。
ウクライナの総人口から避難民を引くと、動員可能な人口は3000万人程度になってしまいます。したがって、現実には、兵士の潜在的な供給元である人口の比率において、ロシアはウクライナに対して約4.7倍も有利なのです。