顧問・麗澤大学特別教授 古森 義久
アメリカ大統領選挙予備選の「スーパー・チューズデー」に合わせて、バージニア州の州都リッチモンドでの共和党ドナルト・トランプ前大統領の支持者大集会に加わってみた。州都の中心街を埋めつくすほど多数の老若男女が早い時間から長蛇の列をつくり、集会場への入場を整然と待っていた。トランプ氏はこの大観衆を前に草稿なしに一気に1時間以上の演説をして、バイデン政権の統治をこきおろし、「アメリカを再び偉大に(MAGA)」と訴えた。
ごく一般にみえる市民たちが州都中心部を埋めつくすほど多数、早朝から集まり、トランプ候補への熱心な支持を表明する光景は民主党バイデン陣営への支持とは明らかに異なる熱気を感じさせた。バイデン大統領への支持もまた広範ではあるが、この種の大規模集会はない。だからトランプ氏への自然発生的な大人数の支持者の気迫は印象的だった。
日本の主要メディアはトランプ支持層の意見や認識に光を当てることが少ない。なぜこれだけ多数のアメリカ国民が民主党側からのトランプ氏への弾劾や起訴という圧力にもかかわらず、この前大統領を支持するのか。
この最重要な問いへの答えは日本の新聞やテレビの報道では、なかなか出てこない。だが実際のトランプ支持者たちの大海のような大規模な集いのなかで長時間を過ごし、肝心のトランプ氏の演説を聞き、支持者たちの反応を見ると、この答えへの手がかりがかなり理解できたように実感したのだった。
バージニア州は首都ワシントンの南に隣接する大きな州である。その首都リッチモンドはワシントンから車で2時間ほど、南北戦争までは南部連合の首都だった歴史と伝統の都市でもある。いまの人口は郊外を含めて約120万、バージニア州全体では人口800万ほどだが、毎回の大統領選では重要州とされる。
このバージニア州は3月5日火曜日の全米計15州で実施された予備選挙「スーパー・チューズデー」の舞台ともなった。トランプ陣営はその予備選に備えて直前の3月2日、リッチモンドで「トランプ支援大集会」を開いたのだった。その集会には「アメリカを再び偉大に」(MAGA)」、「外に出て投票しよう」というようなスローガンも明記されていた。
トランプ氏は2016年、2022年、いずれもバージニアでは僅差で民主党のクリントン、バイデン各候補にそれぞれ負けている。だから今回はとくに勝利が重要だというわけだ。
さて私もアメリカ大統領選挙の取材経験は長いが、この種の各候補の集会、さらには民主、共和両党の全国大会では常に報道陣として取材許可を得て、報道陣の席でその場の展開を目撃してきた。だが今回は報道陣ではなく、一般の観衆、聴衆としてこの集いに加わった。トランプ氏の支持層に直接接し、その支持層の目線でトランプ陣営の動きを目撃しようという意図からだった。