それに対し、ドイツ民間ニュース専門局ntvのヴォルフラム・ヴァイマー記者は13日、「ウクライナ軍のクルスク奇襲はキーウにとって3つのポジティブな効果がある」と分析している。①軍事的、②政治的、③心理的な効果だ。

①軍事的には、攻撃により軍事的な状況がウクライナに有利に変わる。ロシアはドンバス戦線から部隊と武器を引き抜かざるを得なくなるからだ。この戦線では最近までロシア部隊が優勢だった。重要な点は、ロシア自体が戦場となることだ。ウクライナの総司令官オレクサンドル・シルスキーは「侵略者の領土に戦争を移した」と強調している。

②政治的には、ロシアへの進撃によってウクライナは政治的な交渉の余地を取り戻すことができた。占領した領土を得ることで、自国の失った地域を取り戻すための交渉材料となる可能性がでてくるからだ。また、ウクライナは自国軍、国民、そして西側の同盟国に対して、戦争で再び主導権を握れることを示し、それによって軍、国民の士気が高まることが期待できる。

③心理的には、ウクライナ軍の奇襲は、ロシアの弱点を世界にさらけ出し、クレムリンの権力構造を不安定化させる可能性がある。奇襲はロシア軍とクレムリンにとって「衝撃」だった。ウクライナ軍が数千人の兵士で1000平方キロメートルの地域を奪い、ロシア兵士を捕虜にすることに成功したことは、モスクワの指導者層の権威を損ない、自国民の安全を確保できなくなったことを示唆している。

ゼレンスキー大統領は「わが軍は意図的にクルスク市を標的にした。クルスクはロシアにとって極めて象徴的で敏感な場所だからだ」と指摘。歴史的な比較を持ち出して、ロシアのウクライナ戦争の敗北を予言している。具体的には、2000年8月12日にバレンツ海で沈没したロシアの原子力潜水艦「クルスクの悲劇」だ。クルスク原潜の沈没はプーチン氏が大統領に就任してから数週間後の出来事だ。ゼレンスキー氏は「クルスクの悲劇はプーチンの終わり、破滅を予言している」と説明している。