ついに救世主が登場

このような社会で、従来の政治家タイプではない政治家が突如登場した。ハビエル・ミレイ氏である。彼は従来の政治家を特権階級カスタだと呼んで徹底的に批判し、インフレを撲滅させるのに法定通貨をペソから米ドルに変えることを主張。通貨ペソへの国民からの信頼はゼロ。一般に国民は米ドルを手に入れたがる。ドルは常に不足しているので、それがまたインフレ上昇を煽る。

ミレイ氏はオーストリア学派とシカゴ学派の経済に浸透して自由市場経済を主張。特に、キルチネール派の社会主義的な統制経済を強く批判

ミレイ氏が大統領選挙に立候補するということが明らかになると、未来のある新しいアルゼンチンを求めて特に若者が彼を支持し始めたのである。彼ら若者は物心ついたころからはキルチネール派の政権下で、その統制経済にうんざりしていたのである。更に国民の45%が貧困層でミレイ氏が生活を改善してくれることを願って彼に託した。また子供を持つ親たちは発展あるアルゼンチンになることを期待してミレイ氏を支持した。

そのようなミレイ氏が大統領決戦投票まで進んだのである。1回目の投票でトップを走ったのは正義党(キルチネール派が支持)のセルヒオ・マサ氏で、2位につけたのがハビエル・ミレイ氏だった。両者の票差はおよそ200万票。この票差を飛び越えるのは容易ではないと予測された。

そこでミレイ氏に全面支援に動いたのがマウリシオ・マクリ元大統領だった。マクリ氏の候補者は3位だったので決戦投票には進めない。マクリ氏はキルチネール派を絶対に打倒させるという願望を持っていた。しかも、マクリ氏が大統領に成った時も正義党とは違った変革を望んで政権に取り組んだが、その野望は果たせなかった。

そこでミレイ氏を応援してマクリ氏が出来なかった変革の実行を彼に望んだのである。そしてこの3位の候補者が獲得した600万票をミレイ氏に投票するようにマクリ氏は彼の支持者を説得し、ついに実現させたのである。それに加え、マクリ氏は1500万ドルの選挙資金をミレイ氏に提供したとされている。マクリ氏の支援がなければ、恐らく正義党がまた政権を継続していたことであろう。

カミの力を信じる新しいタイプの大統領

ミレイ氏は神秘性を備えている人物だ。それは彼が大統領就任演説の中でもみることができる。彼は「戦争での勝利は兵士の数ではなく、天から来る力に依存するのだ」とユダヤ歴史書の「マカバイ記」を引用したり、また同様に「天からの力がアルゼンチン人を助けてくれることを祈る」とも述べた。

即ち、多くの政治家が陥る物質面から物事を見るのではなく、カミからの力が大きく影響するということを彼自身が信じているのである。だからミレイ氏は神秘性を備えた人物のように見られる。彼のような政治家は今までのアルゼンチンの政界ではまった存在しなかった。彼にそのような思考が備わったのも彼が育った環境に影響している。

ミレイ氏は小さい頃に父親から虐待されていた。一人で過ごす時間が多かったそうだ。クリスマスも15年間一人で過ごした。その間、彼と一緒にいたのはコナンという名前の犬であった。だから彼の話相手はこの犬だけであった。その犬が亡くなると、全く独りぼっちになった彼はコナンのクローンの犬を米国で誕生させたのである。

そしてコナンのクローン犬が現在5匹いる。それぞれ犬の名前には著名な経済学者の名前を付けている。ミルトンはミルトン・フリードマンから拝借したもの。マレーはマレー・ロスバードから、ロバートはロバート・ルーカスなどだ。それぞれの愛犬に政治・経済について相談するのだそうだ。そして、愛犬が彼に「ミレイは大統領に成れる」と啓示したというのである。

この環境の中で愛犬以外に唯一の味方がいた。彼の妹カリーナ・ミレイ氏である。彼女が今回の選挙そして閣僚の人選において多大の影響を与えた。何しろ彼が唯一信頼して来たのはこの妹だけであったからである。だから、今回の組閣では彼女を大統領直属で閣僚級の首席補佐官に任命した。

閣僚就任式で彼女が聖書を前に忠誠を誓うのにミレイ氏は彼女の名前を呼んだ時は涙ぐんだ。何しろ、彼女の存在無くして今日のミレイ大統領の誕生はあり得ないというのはミレイ氏自身が自覚しているからであった。その彼女、2年までケーキを作って販売していたのである。

ミレイ氏の閣僚にはマクリ氏が大統領だった時に閣僚だった人物も入閣している。これまでのキルチネール派に異を唱える政党は同派による政治を政界から葬り去るべく超党派でミレイ氏に協力する姿勢を示している。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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