世界で最初の推理小説といわれる『モルグ街の殺人』をはじめ、ホラー小説『アッシャー家の崩壊』、『黒猫』などで有名な作家で詩人のエドガー・アラン・ポー。40歳という若さでこの世を去ったポーだが、なんとある筋の人々からは「タイムトラベラーだったのではないか」という疑惑が持ち上がっている。
■46年後の事件を予見した小説を創作
近代推理小説の父であり、暗号学の大家にしてホラーの巨匠でもあったエドガー・アラン・ポーだが、彼は実は時間の旅人であるタイムトラベラーだったのではないかという“容疑”がかけられている。生前のポーには、未来をまるで“見てきたかのように”著作において正確に予見していたことが今再び注目されているのだ。
ポーがタイムトラベラーであることを示す根拠は3つあるという。
●46年後に起きたカニバリズム事件
まずその1つ目は、460年後に起ることになる実際の事件をそっくり描いた小説を手がけていたことだ。その小説とは1838年に発表されたポーの唯一の長編小説『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語(The Narrative of Arthur Gordon Pym of Nantucket)』だ。
ストーリーは、航海中に難破した船乗りたちの“カニバリズム”を問う内容だ。食糧も尽き、大海原をあてもなく漂う船の上で、4人の船乗りたちは究極の選択として一番衰弱している1人を“生贄”にし、人間社会のタブーである食人行為を行なってサバイバルする様子が描かれた問題作であった。
この小説が書かれた46年後の1884年、南アフリカ・喜望峰沖で難破したイギリス船籍のヨット「ミニョネット号」の船上で、漂流の20日目に17歳の給仕の少年が“生贄”にされて船員たちに食べられるという悲惨な事件が実際に起ったのだ。
その後船員たちはドイツ船に救助されて生還したのだが、少年を食べた行為が裁判にかけられ「ミニョネット号事件」として世の注目を集めることになる。しかしこの時はポーの小説の内容と事件の類似を指摘する者はいなかったのだが、10年も過ぎた頃に被害者の少年の遺族が事件とポーの小説の“偶然の一致”を新聞に投書して、この一件が再び世の騒ぎを巻き起こすことになった。しかも殺された少年の名前、リチャード・パーカーは、小説の中で生贄になった少年と同姓同名であったのだ。まさにポーは46年後の未来を見てきたかのように、この小説を執筆していたのである。
●現代の脳科学や精神医学の知見を持っていた!?
19世紀半ばはまだ今日のような科学や医学は発達しておらず、人間の脳に関する理解にも乏しいものであった。1948年に、鉄道作業員の男が作業中に鉄のレールに頭を酷く打ちつける事故があったのだが、その後男は別人になったかのように人格が豹変したことで、世の話題を集めることになった。
後に前頭葉症候群(frontal lobe syndrome)と呼ばれることになったこの男の症状は、この時代の人々に人間の脳への理解をもたらすものになったのだが、この事件より8年も前に、ポーは作品の中で人間の脳の前頭葉部分へのダメージが人格の変化を引き起こすことを指摘していたのだ。
1840年に発表されたポーの短編小説『実業家 (The Business Man)』では、少年の頃に頭を強打したことで、破天荒な人生を送ることになってしまった人物が描かれている。このときはまだ病名のないこの前頭葉症候群の人物をポーはきわめて特徴的に描いており、あたかも未来の脳科学を知っていたかのようだと、神経学者のエリック・アルツシューラー氏は自身のFacebookで言及している。
「前頭葉症候群にはさまざまな症状が出ますが、小説ではそれらをすべて正確に描いています。…(中略)…この奇妙なほどに正確な描写は、彼がタイムマシンを持っていたように思えるほどです」(エリック・アルツシューラー氏)
この時代にはなかった脳科学や精神医学の知見を持っていたといわれるポーだが、その秘密はタイムマシンを持っていたことにあるのだろうか。
●宇宙を説明する“ビッグバン理論”を先取り
ポーが獲得していた知見は、脳科学や精神医学にとどまらないようだ。ポーはなんと宇宙物理学のビッグバン理論を知っていたというのである。
ポーの1848年の著作『ユリイカ 散文詩(Eureka: A Prose Poem)』には「物質的宇宙ならびに精神的宇宙についての論考」という副題がつけられており、神や宇宙を考察したある種の哲学書である。150ページにも及ぶ同作は、ポーの執筆活動の集大成ともいわれ、事実この後不慮の死を遂げたことでポーの遺作ともなった。
文学作品としてみなされてはいるのだが、現在の宇宙物理学を先取りしたかのような知見と認識を随所に見出すことができるといわれている。特に宇宙の成り立ちを説明するビッグバン理論の認識に到達していたといわれ、1823年に出題された宇宙論的な問いである「オルバースのパラドックス」に、はじめて説得力のある解答をもたらしたといわれている。
イタリアの天文学者、アルベルト・カッピ氏は、当時の学問の状況の中でポーが卓越した宇宙観を持っていたことを驚きをもって解説している。
「ポーがダイナミックな宇宙生成論(ビッグバン理論)の認識に到達していたことには驚くばかりです。ポーの時代には誰一人、“動的な宇宙”を考えていませんでしたから」(アルベルト・カッピ氏)
決して科学者などではなく、生涯を通じて“文系”であったポーだが、このように未来を先取りする科学的知識を持っていたと思われるエピソードが次々明らかになっている。はたしてポーの正体やいかに? Kindleなどでは無料の邦訳版が充実しているエドガー・アラン・ポーの著作だけに、この機会にいろいろ読んでみてもよさそうだ。
参考:「Upworthy」ほか
※当記事は2016年の記事を再編集して掲載しています。
文=仲田しんじ
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提供元・TOCANA
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