ただ、米国がNATOから脱退するということは現時点では非現実的だ。なぜならば、米上院議会で3分の2の支持がなければ脱退できないからだ。トランプ氏の共和党だけでは脱退できない。
トランプ氏の発言に対し、NATO加盟国では、米国抜きの欧州の安保体制の強化が急務だという声が改めて出てきている。一部では米国の「核の傘」に代わって、欧州独自の「核の傘」を設置すればいいという意見が聞かれる。NATO加盟国では米国を除くと英国とフランスの2カ国が核保有国だ。米国の核の傘の代わりに、フランスの戦略核が欧州の核の傘となるという主張もあるが、核拡散防止条約(NPT)もあって実行までには難しい問題が山積している。
ところで、ロシア軍のNATO加盟国への侵攻というシナリオに対し、オーストリアのインスブルック大学のロシア問題専門家、政治学者マンゴット教授は13日、ドイツ民間ニュース専門局ntvとのインタビューの中で、「ロシア軍の実力はウクライナ戦争でも明らかになったように、現在の通常兵器ではNATO加盟国を侵略する能力を有していない。ロシアがNATO加盟国攻撃の能力を有するには6年から10年はかかるだろう」と説明、NATO加盟国内へのロシア侵攻論を一蹴している。
いずれにしても、トランプ氏の発言は、NATO加盟国向けというより、今年11月の米大統領選を意識した国内向けだろう。トランプ氏にとっては米国の国益を損なうことに反対する“米国ファースト”の延長に過ぎないのかもしれない。その意味で、米国と欧州のNATO加盟国の亀裂か、といって騒ぐ必要はない。プーチン大統領を喜ばすだけだ。ただ、トランプ氏の発言は、米国の軍事力に依存してきた他のNATO加盟国に自国の安全は自国で守るという基本的な立場を再確認する機会を提供したことは間違いないだろう。
なお、NATOのストルテンベルグ事務総長は14日、記者会見でトランプ氏のNATO軽視発言に重ねて遺憾を表明する一方、「今年末までに18カ国のNATO加盟国が軍事支出をGDP比で2%の目標を実現する予定だ」と語った。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年2月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
【関連記事】
・「お金くばりおじさん」を批判する「何もしないおじさん」
・大人の発達障害検査をしに行った時の話
・反原発国はオーストリアに続け?
・SNSが「凶器」となった歴史:『炎上するバカさせるバカ』
・強迫的に縁起をかついではいませんか?