3月15日、「アルゼンチン上院、大統領の大規模経済改革案を否決」というニュースがありました。
ハビエル・ミレイ大統領は、3月1日の議会開会式のスピーチで、協力を呼びかけていますが、大きな改革は従来の利権構造を守りたい勢力からの抵抗が非常に大きく、やはり決して簡単な道ではないのでしょう。
今回は、そのアルゼンチン第142回通常国会開会式(2024年3月1日)におけるミレイ大統領のスピーチの全文文字起こしを和訳しました。
かなり長文なので、前編と後編の2回にわけて書きます。
太字と(※)は筆者です。一部、意味の不明瞭な部分があります。アルゼンチンに特徴的なことなのかスペイン語独特の言い回しなのか不明ですが、ご了承ください。
ちなみに、アルゼンチンの自由主義の英雄でもあるアルベルト・ベネガス・リンチ氏は、下記のポストで、ミレイ大統領の歴史に残る3つのスピーチとして「大統領就任演説」「ダボス会議での演説」とともに、今回の「議会開会演説」をあげています。
De todas partes del mundo me siguen llegando mensajes de admiración y apoyo sobre tres discursos de @JMilei que quedarán grabados en la historia: cuando asumió la presidencia de la Nación en las escalinatas del Congreso, en Davos y al inaugurar las sesiones ordinarias.
— A. Benegas Lynch (h) (@ABENEGASLYNCH_h) March 3, 2024
(ポストの直訳)「私は、歴史に記録されるであろう@JMileiによる3つのスピーチ、つまり議会の階段で国家大統領に就任したとき、ダボス会議での演説、そして普通議会の発足時について、賞賛と支援のメッセージを受け取り続けています」
※ミレイ大統領の大統領就任演説とダボス会議での演説は、下記のnote記事で全文の和訳を載せています。こちらも是非ご覧ください。
アルゼンチン第142回通常国会開会式におけるハビエル・ミレイ大統領のスピーチ全文の和訳(前編)
国民議会の下院議員、上院議員、州知事、最高裁判所の大臣、大使、そして今日この会場で我々と一緒にいる皆様、私たちは、憲法に定められているように、アルゼンチン全土から私たちを見ているすべてのアルゼンチン国民に、国家の状態を伝えるためにここに集まっています。
今日でちょうど83日目になりますが、私たちは、この国の歴史上おそらく最も危機的な経済状況において、この国を率いるという課題に挑みました。
アルゼンチンは、100年以上にわたって貧困化のモデルを主張し、わが国を偉大な国にした考え方をほとんど完全に忘れてしまいました。
さらに、この20年間は特に経済的な災難でした。
公共支出の制御のない乱発の結果、私たちは、アルゼンチン史上最悪の遺産を手にすることになりました。
実際、私たちが受け継いだ双子の赤字はGDP比17ポイントに達しました。
私たちが受け取った遺産の経済データの多くは、国の指揮をとった初日から公開されています。
財務省の財政赤字がGDP比5ポイント、中央銀行が生み出す準財政赤字が10ポイントで、合計15ポイントの連結赤字です。
また、輸入業者や多国間信用機関に対する莫大な負債もあり、債務不履行の危機に瀕していました。中央銀行の純準備金は112億ドルのマイナス、輸送・エネルギー価格は場合によっては実質価値の5分の1まで抑制され、ドルは公式為替レートと並行為替レートの間に200パーセントの開きがありました。
政権発足後3年間に発行されたGDPの15ポイント以上に加え、政権末期には、13ポイントも発行されました。
一方、12月第1週の小売インフレ率は年率3700%でした。
第2週は年率7500%に加速しました。
この数字を空想だと思う人もいるかもしれませんが、卸売業の月間インフレ率52%は、年間インフレ率17,000%を意味します。
これらは、BCRAの有利子負債に由来する余剰通貨と潜在的な発行額と完全に一致する数字でした。政治家の中には、自分自身のことでない限り、足し算をするのが難しい人がいることは理解しています。
だから、彼らに幾何学的成長関数を計算するよう求めるのは、それを見たことがない人、見ていない人、今後も見るつもりがない人々にとっては矛盾したことです。
しかしながら、災難はこれで終わりではありません。
国家行政を監査し、国家行政がもたらした経済的混乱の禍根が少しずつ顕在化するにつれて、私たちは、私たちが受け継いだ危機の大きさ、つまり社会生活のあらゆる側面に存在する危機をより強く認識するようになっています。
私たちが受け継いだ遺産の最も明らかな指標は、アルゼンチン人の約60%が貧困ライン以下であるというデータが公表されたときです。
これは、最近わかったことです。
しかし、貧困がある日突然現れたように見える人もいます。
実質賃金は、労働の限界生産性の結果であり、それは資本の蓄積によって決まることを指摘したいと思います。
だからこそ、「資本との闘い」というよく言われる言葉が投資を弱体化させ、国民一人当たりの資本ストックを減少させ、結果として実質賃金を低下させるのです。
ポピュリズムは次のような狂気をもたらしました。
ドル建ての平均給与が、ドル(並行為替レート)換算で、90年代には1,800ドル(これは現在の通貨に換算すると3,000ドルです)に達していました。
それが、現在はドル換算で300ドルです。
言い換えれば、ポピュリズムは私たちの収入の90%を奪い、正規労働者の3分の1が貧困に陥るという狂気のレベルに達したのです。
これは悲痛な事実であり、私たちが受け取った遺産の残虐性と、現在の国家の有名なモデルによって生み出された荒廃を明らかにしています。
自由の理念を受け入れた世界で最も裕福な国であった時代から、アルゼンチン国民の10人中6人が貧しい一方、多くの政治家つまりあなた方の多くが裕福である国に変わったのです。
この50年間で10倍になった貧困の悲劇に加え、アルゼンチンでの生活のあらゆる面で、社会的負債と深刻な問題が生じています。
この社会は、記録的なレベルの貧困を抱え、同時に、歴史上かつてないほど多くの社会扶助を分配しています。
その社会扶助の大部分は、彼らが守ると主張する人々から金を盗み、金を生み出す人々を攻撃する左翼組織の戦利品となっています。
私たちの社会の労働市場は、正規の民間部門が凍結されています。
正規の民間部門は硬直的で人件費が高いため、この12年間一度も新規雇用を生み出していません。
一方、公共雇用と非正規雇用だけは伸びています。
さらに、これだけでは十分でないかのように、破綻した年金制度の問題があります。
この年金制度は、その経費に比例して毎日収入が減少しており、過去10年間で、生涯を通じて責任を果たしてきたすべての人々に対する道徳的侮辱であるモラトリアムによって、400万人近い受給者を保険料なしで組み込んできました。