今年5月にスタートした東日本旅客鉄道(JR東日本)のデジタル金融サービス「JRE BANK」の人気が衰えない。サービス開始当初は申し込みが殺到して連日、受付のキャパをオーバーしたと報じられた。そこから5カ月が経過しても、申し込みや問い合わせは多い。JR東日本が目標として掲げている100万口座も、早期に達成しそうだ。他の金融サービスに比べ、どれほどお得なのだろうか。

 JRE BANKは5月9日、JR東日本が同グループのクレジットカード会社「ビューカード」とともに開始。最大6000ポイントのJRE POINTをプレゼントする口座開設キャンペーンなどの効果もあり、6月末までに30万口座を超えるほど申し込みが殺到した。

 特に話題となったのが、運賃4割引となる「JRE BANK優待割引券」だ。対象はJR東日本の営業路線内で、JR東日本のネット予約サイト「えきねっと」で申し込める乗車券や特急券などに利用できる。

 50万円以上もしくは300万円以上の資産残高、ビューカードの利用代金の引き落とし、JRE BANKを給与、賞与、年金の振込口座にすれば、次の3つの特典が受けられる。

(1)JRE BANK優待割引券(4割引)
(2)どこかにビューーン!2000ポイント割引クーポン
(3)Suicaグリーン券(モバイルSuica限定)

 資産残高や利用状況によってもらえる特典の枚数は変わるが、旅行好きの方にとっては見逃せないサービスだ。

 また、JR東日本は6月4日、2033年度を見据えた中長期ビジネス成長戦略「Beyond the Border」を発表した。人口減少などでマーケットが変化する中で「モビリティー」と「生活ソリューション」の2軸による持続的成長を狙うとして、Suicaを進化させ、移動サービスだけでなくさまざまな生活シーンにつながる新たな「Suicaアプリ(仮称)」を創出するという。

 Suicaを単なる移動用デバイスから「生活のデバイス」に進化させ、2027年までにえきねっとやモバイルSuicaなどの各種IDを統合する。また、クラウド化による新しい鉄道チケットシステムを開始し、例えば、駅ビルで一定額の買い物をした利用者に、帰りの運賃割引の提供を可能にするとしている。JR東日本はこの戦略により、今後10年で現在のJRE POINT生活圏を拡大したリアル・デジタル双方にまたがる「Suica経済圏」を創出し、2033年度における生活ソリューションの営業収益・営業利益を2023年度比2倍にすることを目指す。

Suica経済圏が持つポテンシャル

 ポイ活アプリ「ポモチ」を運営する株式会社オモチの取締役・足澤憲氏に、JR東日本が掲げるSuica経済圏や、新Suicaアプリ、JRE BANKについて見解を聞いた。

――まずJREポイントについて、今後10年で2倍に拡大させると発表がありましたが、実現可能性はどのように見ていますか。

「もともと2018年に、JR東日本は『変革2027』を打ち出しました。そのなかで、将来の目標をいくつか掲げており、今回の構想は、その進化版、もしくはブラッシュアップ版といえます。かつて24個くらいにばらばらだったポイントを統合してきてJREポイントになり、それが今度はSuicaを軸に一本化されていくわけで、ある意味で当然の流れといえます。

 一部でポイントが変更されることに抵抗感を持ったり、面倒に感じる方もいるようですが、利用者にとってさまざまな利便性が上がるのは間違いありません」(足澤氏)

――2028年度に新Suicaアプリをリリースするとのことですが、もっと早くできないのでしょうか。

「2018年に『変革2027』が出た際にも、ずいぶん先の話だと感じる向きが多かったようですが、今回統合するポイントも、それぞれの規模が大きいので、内部調整やシステム統合など、数年単位で時間がかかるのも仕方がないのかなと思います」

――JREで生み出される経済圏は、楽天やauの経済圏に匹敵、もしくは上回る規模になりうるのでしょうか。

「何を比較対象にするかによって考え方は変わるかと思いますが、たとえば会社規模で考えると、楽天グループは2兆円くらいで、JR東日本もそれに相当する規模ですから、ポテンシャルは同等といえるかもしれません。また、カードの発行枚数で見ると、楽天は3000万枚を超えており、クレジットカードでは最強との見方が強いですが、Suicaは現時点で9200万枚発行されています。Suicaはクレジットカードではなく電子マネーなので、単純に比較はできないですが、会員の母数が3倍も大きいですし、移動という日常生活に密着しているという点で、Suicaは楽天に比肩、もしくは超えてくる可能性を秘めているといえるかもしれません。さらに、楽天などは高齢者層が少ないですが、高齢者でもSuicaを使って移動はします。年齢層の幅が広いので、将来的な成長の可能性も大きいのかなと期待できます」

――課題として考えられるのは、現在はSuicaの経済圏がJR東の範囲に集中しているので、全国規模でみると弱いのではないかという点です。

「確かに拠点となるのは東日本なのかもしれませんが、Suicaは全国の交通ICは共通化されているので、経済圏は東日本に限らないと思います。また、PayPayなどのQRコード決済はアプリを立ち上げるのに時間がかかるなどオペレーションコストがかかります。しかしSuicaはかざすだけで決済できるので利便性は高く、QRコードよりも優位な点が多くあります」

――Suicaの新アプリが始まるまでにあと4年あるので、ほかの経済圏がどのくらい成長するかという未知数の部分もありますが、それでも他社に引けをとらないくらいの規模の経済圏をつくれるとみることができますね。

「JRE BANKについても、あまりにも得すぎて、ほかの銀行関係者などと話をしていると『ずるい』との声が出ています。あれほどのサービスができてしまう力があるということは、今後、どんどん人が流れていくことは容易に想像できます。実際にJRE BANKの申し込みも圧倒的でしたので、経済圏が非常に大きくなるのは間違いないでしょう」

――ほかの小売業者が銀行業に乗り出すよりも話題性も大きく、スピード感も圧倒的だったJRE BANKは、やはり潜在的ニーズの大きさとともに、消費者の期待感も大きいように感じます。

「そうですね。連日、申し込みがストップかかるほどで、成長の度合いも大きくなりそうです。誰もが日常的に利用する公共交通機関に、特典を付けられるというメリットは非常に大きいといえます。イオンや楽天など小売業では、買い物にポイントを付けることが中心で、乗り物を利用することに割引特典を付けるといったことはできません。その点で、JRは競合が少ない独占市場で事業展開ができるわけです」

 他の銀行関係者が思わず「ずるい」と漏らしてしまうほど、JRE BANKはオトクだという。裏を返せば、他行がマネできないほどのサービスをJRE BANKでは打ち出しているといえる。今後もさらに成長を加速させる可能性がありそうだ。

(文=Business Journal編集部、協力=足澤憲/オモチ取締役)

提供元・Business Journal

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