ハンブルク市の交通改革「ハンブルク・タクト」
クリスマス・シーズンになって街中が盛り上がっているドイツのハンブルク市にやってきました。ボクはおよそ10年ぶりのハンブルクです。もう60年近く前になりますが、都市圏内のすべての鉄道事業者やバス事業者で連合組織をつくり、その連合組織で、運賃体系、路線やダイヤの調整、車両のデザインや駅やバス停のデザインも統一する運輸連合(hvv)という考え方をドイツで初めて導入した公共交通先進都市です。この街に、電気自動車による新しいモビリティサービスの「MOIA(モイア)」の導入、モビリティハブ整備の推進といった新しい動きがあるということで、現地視察とヒアリングを行ってきました。
個別の話も面白いのですが、全体の包括的な戦略にこそ学ぶことが多いと思い、ここで紹介します。60年近く前から、現在の日本の多くの都市よりもずっと使いやすい公共交通サービスを実践してきたハンブルクで、なぜ新しいことを始めているのか、ここから始まります。
これは、欧州共通のようで、先月現地ヒアリングをしたバルセロナでもパリでも同じでしたが、地球温暖化問題への対応として、自転車や公共交通での移動を増やすことが政策の大目的であるというところから始まっています。そのための戦略として、ハンブルク・タクト(Hamburg Takt)というモビリティ改革戦略が2019年に設定されました。これは「すべての市民が徒歩5分以内で質の高い都市公共交通にアクセスでき、ハンブルクで指揮棒を振るようにテンポよく滑らかに移動できる素敵な時間を過ごせるようになる」という意味のようです。
以前から充実している通勤電車(Sバーン)、地下鉄(Uバーン)そしてバスといった交通サービスをさらに強化することで、市民の85%が5分以内にアクセスできるようになる予定です。残りの15%をカバーするには、オンデマンドサービスが必要になります。地球温暖化対策もあり電動化が必須です。
なお、対象となる地域が広範囲なので、多くの車両台数と多くの乗務員が必要になり、近未来にはオンデマンドサービス用の自動運転技術の開発が必須になります。そして、既存交通サービスとオンデマンドサービスを束ねつなげるために、いわゆるMaaSアプリとモビリティハブが必要になります。バーチャルとリアルの両面でつなげるという発想のようです。
以上のような論理構成で、既存公共交通強化、オンデマンド電動車サービス、自動運転技術開発、MaaS、モビリティハブの役割と位置づけがわかりやすく整理されています。
さて、オンデマンドサービスの第一号として、冒頭で紹介したようなVWの専用電動ミニバン車を用いたMOIAのサービスが300台規模で始まっていました。スマホアプリでリクエストすると、時間帯にもよりますが、5分~15分以内に、徒歩5分以内の指定場所にやってきます。他人と乗り合う場合もあります。運賃は既存の公共交通機関よりも高額です。運賃がやや割高で、乗り合う場合もあるということで、既存のバスやタクシーとも役割分担ができているようです。
市内にどんどん増えているのがモビリティハブ(hvv switch)です。視察時点で40個所以上ありました。EV乗用車によるカーシェアや自転車シェアリング、電動キックボードステーションが、地下鉄駅前に集約されており、コンビニや軽食スタンドもある空間になっています。看板はMaaSアプリ(こちらもhvvスイッチという)と同じロゴになっています。バーチャルもリアルも同じコンセプトです。多くの人がいろいろな交通サービスを利用して賑わっていました。
ハンブルク・タクトというモビリティ改革戦略は、ややもすると個別技術開発に走りがちな分野において、包括的でわかりやすい方向性を示してくれています。
提供元・CAR and DRIVER
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