イスラエルのネタニヤフ首相は昨年10月28日、パレスチナ自治区ガザを2007年以来実効支配してきたイスラム過激テロ組織「ハマス」がイスラエル領に侵入し、奇襲テロを実行した直後、「アマレクが私たちに何をしたかを覚えなさい」と述べたという。
ネタニヤ首相はなぜ、突然「アマレクの蛮行を忘れるな」と言い出したのだろうか。ネタニヤフ首相の発言は旧約聖書「申命記」第25章17~18節に記述されている。アマレクは古代パレスチナの遊牧民族で、旧約聖書によると、イサクの長男エサウの孫エリファズの子だ。
「あなたがエジプトから出てきた時、道でアマレクびとがあなたにしたことを記憶しなければならない。すなわち、彼らは道であなたに出会い、あなたがうみ疲れている時、うしろについてきていたすべての弱っている者を攻め撃った。このように彼らは神を恐れなかった」。
モーセがエジプトから60万人のイスラエルの民を引き連れて神の約束の地に歩み出していた時、アマレク人がイスラエルの民を襲撃した。ネタニヤフ首相は「アマレク人の蛮行」と「ハマスのテロ」を重ね合わせて語ったはずだ。約1200人のユダヤ人が殺害されたハマスのテロ奇襲のことをイスラエル国民は忘れず、記憶しておくべきだというわけだ。
イスラエルでは「アマレク」は悪のシンボルのように受け取られている。ネタニヤフ首相はハマスの奇襲テロの直後ということもあって、申命記に登場するアマレクに言及したのだろう。イスラエル人はどの世代にも背後からイスラエルを殺そうとする敵が存在すると考えてきた。ナチスもアマレクだった。
ところが、南アフリカは2023年12月末、申命記第25章17節から引用したネタニヤフ首相の演説内容を、「パレスチナ人に対するジェノサイドへの呼びかけ」と解釈し、国際司法裁判所(ICJ)に訴訟を起こす根拠に挙げている。