バチカンニュースは「18世紀以来、マリアの出現は『私的啓示』に分類されている。カテキズムによると、教会がその真実性を認めた場合でも、カトリック信者は私的啓示を信じるかどうかは自由だ。専門家はこれらの出現を経済的・政治的危機、飢饉、疫病、不作などと関連付けて見ている。1850年代と1870年代、第一次世界大戦、1930年代初頭には出現が頻発した」と解説している。

バチカンからのニュースは一見、合理的で時代に呼応する対応だが、少し穿った見方をすれば、聖母マリアの再臨現象が世界各地で報告されていても、その信憑性が疑わしいケースが少なくないため、バチカン側が危機管理に乗り出したというべきだろう。

バチカンニュースは2023年8月17日、「聖母マリアの出現は本当か、嘘か」というセンセーショナルな見出しで大きく報道していた。チェッチン神父は「聖母マリアの再臨などで語られるメッセージが混乱を引き起こし、恐ろしい終末論的なシナリオを広めたり、教会批判を拡散することも増えてきた。世界のさまざまな地域で報告されている亡霊や神秘的な現象を正しく評価および研究するために、国内外の委員会を活性化する必要がある」というわけだ。

カトリック信者にとって聖母マリア再臨の巡礼地といえば、ポルトガルのファティマの(1917年)やフランスのルルド(1858年)がよく知られてきた。フランス南西部の小村ルルドで1858年、聖母マリアが14歳の少女、ベルナデッタ・スビルーに顕現。これまでにルルドの水を飲んで6500回以上の癒しが記録されている。その内、66回はバチカン法王庁が公式に奇跡と見なしている。ルルドには毎年、約400万人が訪れる。

最近では、ボスニア・ヘルツェゴビナのメジュゴリエで聖母マリアが再臨し、様々な奇跡を行ってきた。ボスニアの首都サラエボから西約50kmのメジュゴリエでは1981年6月、6人の子供たちに聖母マリアが再臨し、3歳の不具の幼児が完全に癒されるなど、数多くの奇跡がその後も起きた。毎年多くの巡礼者が世界各地から同地を訪れてきたが、バチカンは巡礼地として公式に認知することを久しく避けてきた。ちなみに、公式認定はまだだが、2019年には巡礼は認めている。

カトリック教会では「神の啓示」は使徒時代で終わり、それ以降の啓示や予言は「個人的啓示」とし、その個人的啓示を信じるかどうかはあくまでも信者個人の問題と受け取られてきた。イタリア中部の港町で聖母マリア像から血の涙が流れたり、同国南部のサレルノ市でカプチン会の修道増、故ピオ神父を描いた像から同じように血の涙が流れるという現象が起きている。スロバキアのリトマノハーでも聖母マリアが2人の少女に現れ、数多くの啓示を行っている。それらの現象に対し、バチカン側は一様に消極的な対応で終始してきた。

聖母マリアの再臨地には多くの巡礼者が殺到し、病が癒される奇跡を願う。巡礼地には若者たちの姿も少なくない。教会関係者は、「若者たちは奇跡を追体験したがっている。科学文明が席巻する今日、若者たちは奇跡に飢えている」と説明する。その一方、フェイクの再臨現象も出てきた。聖母マリアの再臨地となれば、世界各地から多くの信者が巡礼にくる。表現は良くないが、現地の教会、その地域にとって大きなビジネスとなるからだ(「『聖人』と奇跡を願う人々」2013年10月2日参考)。

新規範の文書を発表した教理省長官のビクトル・マヌエル・フェルナンデス枢機卿は「聖母マリアの再臨などの出来事はしばしば、信仰の成長、敬虔さ、兄弟愛、奉仕の精神など、多くの霊的な実をもたらし、民衆信仰の中核となっている巡礼地がある一方、疑わしい超自然現象による出来事の中には、信者に害を与える非常に深刻な問題が発生することもある。例えば、利益、権力、名声、社会的な有名性、個人的な利益を得るためにこうした現象が利用される場合だ」と述べ、「人々を支配したり、虐待を行う手段として利用されることさえある。また、これらの出来事には、信仰教義の誤り、福音のメッセージの不適切な短縮、宗派的な精神の広まりなどが含まれることもある」と語っている。

いずれにしても、超自然現象の評価に関する最高権威は教皇にある点では変わらない。バチカンの文書は、「通常の手続きでは、教会の権威による疑わしい超自然現象の神的起源の肯定的な認定は期待されない。教区司教も司教会議も教理省も通常、これらの現象が超自然的なものであると宣言することはない。教皇のみがこの手続きを承認することができる」と強調している。

参考までに、バチカンがこれまで公認した超自然現象の出現地には、ルルド(フランス)、ファティマ(ポルトガル)、グアダルーペ(メキシコ)、ラ・サレット、ノートルダム・デュ・ロウス、パリ/ルー・ドゥ・バック(フランス)、バヌー、ボーリン(ベルギー)、ノック(アイルランド)、サン・ニコラス・デ・ロス・アロヨス(アルゼンチン)、ディートリッヒスヴァルデ(ポーランド)、キベホ(ルワンダ)、アキタ(日本)などがある。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年5月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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