世界最大規模のスーパーマーケットチェーン、ウォルマートを所有するウォルトン家。推定1,905億ドル(約20.5兆円 ※1ドル=107.6円換算)と言われる莫大な資産を、事業と投資でさらに増やす一方で、慈善活動などを通して社会還元にも努めている。

ウォルトン家の「お金の使い方」

小売業管理事業でキャリアを積んだサム・ウォルトン氏が、1962年に設立したウォルマートは、市場価値2952億ドル、国内に4769店舗 、世界で1万1766店舗 の巨大スーパーマーケットチェーンへと成長を遂げた(2019年データ)。

フォーブス誌の長者番付で1位に輝いた同氏は、1992年に86億ドル(現在の150億ドル相当)の純資産を残して他界。遺産と事業は家族に受け継がれ、1分あたり7万ドル 、1時間あたり400万ドル、1日あたり1億ドルもの富を生みだしている。

積極的に事業にたずさわり、ウォルトン帝国の繁栄に貢献してきたのは、3人の息子だ。 一族で最も裕福だと言われる三男のジムは、一族が所有するアーヴェスト銀行の44%の株を保有している。2016年に息子が後任となるまで、ウォルマートの取締役員も務めていた。

2005年、不幸にも飛行機事故で他界した次男のジョンは、1992年にウォルマートの取締役に就任し、約1,200万株の自社株などを保有していた。

2015年までウォルマートの会長を務めた長男のロブは、クラッシックカーの収集家としても有名だ。1962 Ferrari 250 GTO など1950~1960年代に製造された 、高級スポーツカーやレーシングカーの膨大なコレクションを保有している。

長女のアリスは事業にたずさわる代わりに、アート収集活動に情熱を注いでいる。アンディ・ウォーホルやジョージア・オキーフのオリジナル作品を含む、膨大なプライベート・コレクションを所有しており、クリスタルブリッジという美術館を開設している。

一族は非営利組織ウォルトン・ファミリー財団の運営を始め、慈善活動にも多額の資産を投じている。

例えば、ジョンは遺産の17%は妻に遺し 、残りは一人息子とチャリティー団体に寄付したほか、ジムとアリスは、チャータースクールの資金調達を支援する目的で、3億ドル相当の債券を発行するプログラムを引導している。2019年にはジムが12億ドル相当、ロブが1,500万ドル相当の保有株をチャリティーに寄付した。

超高額アートは富裕層の節税対策?

富裕層、特に海外の富裕層にとって、資産形成のポートフォリオには「現金(債権)」「不動産」「株式」に加え「アート」を加えるのが近年、一般的になってきている。投資対象としてそれだけ魅力的ということだろう。

最近では、ZOZO創業者の前澤友作氏が約1億1,049万ドルでジャン=ミッシェル・バスキア作の絵画「Untitled」を落札したことも話題となった。

なお、絵画の落札最高額はレオナルド・ダ・ヴィンチの作とされる「サルバトール・ムンディ」の約4億5,031万ドルとなっている。落札者は非公開だが、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が現在所有していると見られている。

富裕層が超高額アートを購入する理由のひとつには、税制優遇が挙げられる。世界各国で文化財の国外流出を防ぐための税制優遇措置がとられており、日本でもそれは同様だ。

例えば、文化的価値の高い美術品は「登録美術品」として登録した上で美術館に貸し出せて、そうした作品は相続税の物納に使うことも可能となる。超高額アートには、この「登録美術品」に登録可能なものが多いと考えていいだろう。

登録基準は、「重要文化財に指定されたもの」もしくは、「世界文化の見地から歴史上、芸術上又は学術上特に優れた価値を有するもの」のいずれかに該当するものとされ、後者は、「我が国の国立美術館・博物館のコレクションの主要な部分を構成しうる価値を有する」作品とも説明されている。

2021年4月1日には登録基準が改正され、登録対象が拡大。制作者が生存中の美術品も範囲に含まれ、「制作後、原則として10年を経過した作品」「文化庁長官が定める美術館が開催する展覧会(公募により行われるものを除く)において複数回公開されたことがある作品」であれば、登録可能となった。これは現代アートの国外流出を防ぐための改正といえそうだ。

相続税を金銭で納付することが難しい場合、金銭以外の相続財産で相続税を納付できる。通常の優先順位は、第1順位「国債および地方債または不動産および船舶」、第2順位「社債および株式」、第3順位「動産」となっており、一般の美術品は第3順位の「動産」にあたる。

つまり、一般の美術品は相続税の物納には使いにくいといえるが、「登録美術品」に関しては特別に第1順位となるため、物納が容易となる。

「登録美術品」の税制上の最大のメリットといえるのが、相続税の納税猶予制度だ。

これは、美術館と長期寄託契約を結んで美術品を貸し出している最中にその所有者が死亡し、美術品を相続(または受贈)した者が寄託契約を継続した場合に、その美術品にかかる相続税額の80%相当が納税猶予される制度である。

これをうまく利用すると、多くの「登録美術品」を持っておくことで、一度に相続税の負担がのしかかってくることを軽減できる。

①その美術品を相続した者(または受贈者)が死亡した場合か、②その美術品を寄託先の美術館に贈与した場合、あるいは、③その美術品が災害により滅失した場合、には猶予されている税額自体が納税免除となる。

こうした税制優遇は相続税の節税、税負担の軽減を図りつつ、社会貢献・文化貢献できる点でも富裕層にとっては魅力的であるようだ。

富裕層から学べることは多い

ウォルトン家のお金の使い方は、一般人にとってはスケールが大き過ぎると思うかもしれない。しかし、「仕事と趣味を楽しみ、増やしたお金を社会に還元する」という考え方から、学ぶことは多いのではないだろうか。

文・MONEY TIMES編集部