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一路、南に600km離れたオアシス「ムザブ」へ
伝統を守る敬虔なイスラム教徒たちの生活
一路、南に600km離れたオアシス「ムザブ」へ

ムザブは約10kmの広がり、27万本のナツメヤシ、3千の井戸があると言われているオアシスです。標高500m前後に広がる岩砂漠地帯で、夏は摂氏40度を超える一方で、冬は霜が降りることもあり、年間降水量は200m程度です。紀元11世紀にイスラム教徒のなかでも、さらに少数派であった「イーバード派」を信奉していた人びとが迫害を恐れて、流浪の末に砂漠のオアシスにたどり着いたのが始まりとされ、14世紀中期までに5つの村が形成されました。
村の中心部にはイスラム教のモスク(礼拝所)があり、そこから円を描くように建物が広がっており、大きさや色も決められています。中央にモスクを据えて、小さい建物が折り重なる風景は、ル・コルビュジェも影響を受けた立体主義(キュビズム)の作品を見ているかのようです。

外部の人が村の中に入るには「顔役」である、現地ガイドさんの同行が必須となっており、たとえアルジェリア人であっても、勝手に入ることは許されていません。それぞれの村では中世イスラム教の伝統が息づいており、古くからの習慣や文化を残した生活を営み、独自で強力なネットワークを持ち、今でも村の外のひととの結婚はないと言われています。人びとは知識欲が旺盛で、商売熱心であることでも知られています。現在では男性は生活のために村の外に出ることも多いですが、一方女性は留まることも多く絨毯や服飾などの織物を編んで生計を立て、市場への買い物も女性の代わりに男性が代わりに行くことも珍しいことではありません。
それでは行くつかの村の中に入ってみましょう。
伝統を守る敬虔なイスラム教徒たちの生活

5つあるムザブの村のひとつ、ベニ・イスゲンのガイド「ハッジさん」に、彼の村内をご案内いただきます。ちなみ「ハッジ」とはイスラム教の聖地メッカへの巡礼を意味し、ハッジさんの先祖がかつて聖地メッカへの巡礼をしたことに由来する、ありがたいあだ名です。先に述べたように村の中は必ず「顔役」であるガイドさんと共に行動し、個人行動は認められていません。そのガイドさんがハッジさんで、観光客にも人気者です。
村に中に入る門の前には、まず「現地女性の撮影禁止」、「タンクトップなど過度な肌の露出禁止」、「喫煙禁止」を記した注意書きの看板があり、厳守するように言われます。

ベニ・イスゲンで印象的なのは、女性が頭の先からつま先まで白い布で全身を覆って街を歩く姿で、未婚女性は両目を出し、既婚女性は片方の目だけを出して歩きます。女性は村外からの訪問者に気が付くと、自らで避けることもありますが、止むを得ず女性とすれ違うときががあり、そのときには絶対にカメラを向けてはいけません。砂漠の暑さを遮るために厚い壁に覆われた家は、細く曲がりくねった道は人びとの生活道路で商店があり、学校があり、途中にはモスクがあり、今でも人びとが厳格な教えを守り抜いて暮らしている様子がうかがえます。