ナショナリズムに訴えれば、当然、『北朝鮮は悪い』という認識を限りなく増幅させることになる。『実際、北朝鮮は悪いではないか』という反論があるかもしれない。拉致問題に関する限り、確かにそうであろう。しかし、だからといって『北朝鮮は悪い』という認識だけにしがみついて国内で集会をしてシュプレヒコールを挙げているだけで、二国間の問題が全自動洗濯機のように勝手に解決されるわけではないのである。

このことは、日本の戦争責任を問いたい中国の人々が、いくら『日本は悪い』というナショナリズムの心情を高揚させて中国でデモをしたりしても、そのことによって日中間の問題が自動的に解決するわけでは決してないことを考えれば、小学生でも簡単に理解できることだろう。

拉致問題を本当に解決したいのだったら、北朝鮮との間に持続的かつ緊密な関係を作らなくてはならない。これは核問題やミサイル問題に関しても同じである。このような関係の構築を通してのみ、二国間の関係を解決できるのである。でなければ戦争をするしかない。戦争が出来ないのであれば、緊密な関係を構築する以外に選択肢はただの一つもないのである。

長い引用をしてしまい恐縮ですが、小倉紀蔵・京都大学教授はその著書「北朝鮮とは何か 思想的考察」(2015年・藤原書店)でこのように論じておられます。

相手のある外交ですから、言えないことが多くあることはよく承知していますし、これは安全保障でも同じことです。しかし、単に「あれも言えない、これも秘密だ」ばかりでは、国会における議論や国民に対する真摯な説明や説得にはなりません。

日本人の外交感覚や安全保障感覚が、単なる感情的なナショナリズムに堕することなく、正しく醸成されていくためには、我々政治の任にある者がより深く学び、考えなければならないことを痛感します。

編集部より:この記事は、衆議院議員の石破茂氏(鳥取1区、自由民主党)のオフィシャルブログ 2022年11月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は『石破茂オフィシャルブログ』をご覧ください。