アミ二事件から2カ月が過ぎた。アミ二事件、15歳の少女の死、そしてイランの有名なクライマー、エルナス・レカビさん(33)が韓国で開催されたアジア競技大会でヘッドスカーフを着用せずに出場した問題は、いずれも女性がイスラム教の服装規定に反する、ないしはそれに抗議した理由から生じたが、イランで現在行われている抗議デモは女性のスカーフ問題、女性の人権といった範囲を超え、イスラム革命後から43年続くイスラム聖職者支配体制への抗議でもあり、国民経済の停滞への不満の爆発によるものだ。
メディアの報道によると、イランの司法当局は、政治、映画、スポーツ界の著名人に対して捜査を開始した。具体的には、元国会議員2人、女優5人、サッカーのコーチ1人が尋問のために呼び出された。彼らは、SNS上で当局者に対して「挑発的で侮辱的な」発言をしたとして告発されている。8人が起訴された場合、長期の就労禁止に直面することになる。司法当局は、著名人がSNSを通じて抗議デモを支援することは「国家安全保障に対する脅威」と考えている。
テヘランの革命裁判所は抗議デモ参加者に対し、有罪判決を下し、「混乱の中で、殺人、テロの拡散、社会の不安定化を意図してナイフを抜いた」として死刑判決を下した。ちなみに、抗議デモ参加者への死刑判決はこれまで6回下されている。
イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は、「わが国を混乱させている抗議デモの背後には、米国、イスラエル、そして海外居住の反体制派イラン人が暗躍している」と主張。強硬派のライシ大統領は先月16日、「バイデン米大統領がイランで混沌とテロと荒廃を扇動している」と非難している。また、イラン軍、革命防衛隊、警察の司令官はハメネイ師宛ての共同書簡の中で、「われわれは国内の抗議行動と戦う準備が出来ている」と戦闘意欲を誇示し、「イスラム共和国の敵の悪魔的な計画を破壊する」と檄を飛ばすなど、強権で抗議デモを鎮圧する姿勢を崩していない、といった状況だ。
懸念材料は、イランがウクライナに軍事進攻するロシアのプーチン大統領を支援し、イラン製無人機(ドローン)をロシアで現地生産する方向で、イランとロシア両国が合意したということだ。イランは国内では民主化を要求する国民を強権で鎮圧し、対外的には軍事力でウクライナに侵攻するロシアとの関係を深めようとしている。一方、イランの核合意(米英独仏中露の6カ国とイランが2015年に合意した、イランの核をめぐる包括的共同作業計画)再建外交は進展していない。イスラエルの情報によると、イランの核兵器製造は差し迫っているという。イランがモスクワに無人機支援の見返りに、ロシアの支援を受けて核開発の最後のステップを踏み出す、というシナリオが現実味を帯びてきているのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年11月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。