一方、カタールは開催が決まると、サッカー場の建設ばかりか、交通ネットワークなどインフラに巨額の投資をしてきた。独メディアによると、カタールは2010年以来、総額2000億ドルをW杯のインフラ整備のために投資してきたという。開催日は灼熱下では選手たちも大変だということで11月開催に落ち着いた。

中東の地の初のW杯開催はカタールにとって大きな勲章だ。そのため、西側から批判が集中した外国人労働者の待遇問題についても、新しい労働法を施行し、労働条件を改善してきた。国際労働機関(ILO)もカタールの努力を評価、「カタールの労働条件は2019年以来、著しく改善されてきた」と認めているほどだ。

ちなみに、カタールの人口は約250万人だが、純粋にカタール人はその10分の1で、他は外国国籍者だ。同国で労働する国民は主に外国人といわれる。カタールには世界90カ国以上の外国人が働いている。カタールで働く1人のアジア出身の労働者は、「賃金はあまり高くないが、自分の国よりいい」という。カタールの建築現場で働きながら給料を故郷の家族に送る出稼ぎ労働者が多いわけだ。なお、首都ドーハにあるサッカーアカデミーには約2000人、70カ国以上の出身者が登録しているという。

西側メディアが、「カタールでは多くのイスラム教国と同様、女性の権利は蹂躙され、社会的地位は低く、性的少数派を拒否している」と報じると、女性権利の人権擁護グループや欧米の性的少数派グループが激しく噛みつく、などの展開がこれまで続いてきた。

カタールは国のプレスティージのためにサッカー場だけではなく、道路、交通機関などを整備してきている。キックオフまでに一定のインフラは整備されたが、カタールのサッカー試合を観戦する外国人ファンを収容するホテルの数が少ないといわれ出した。カタール側も初の世界的スポーツイベントだけに試行錯誤している、というのが現状だろう。

カタール主催のW杯の舞台は既に準備されている。今更、カタールW杯ボイコットを叫んでもあまり意味がない。開催される以上、中東初のW杯開催が成功することを願うだけだ。世界のサッカーファンの多くはテレビ観戦となるが、見るか、見ないかといったハムレットのように苦悩することは精神上良くないから、ここは割り切って、試合(チーム数32、試合数64、11月20日~12月18日)を堪能するほうがいいのはないか。

労働者の権利、女性の権利を含むカタールの人権問題を理由にW杯開催をボイコットすることには無理がある。中国共産党政権下で北京冬季五輪大会が開催されたばかりだ。北京冬季大会の開催では中国の少数派民族ウィグル人や法輪功メンバー弾圧など人権問題を理由に北京開催中止を求める西側メディアの報道はあまりなかった。カタールの「西側メディアのダブルスタンダート」(タミム・ビン・ハマド・サーニ首長)という批判は残念ながら間違ってはいない。

当方は、というと、ウィーンでカタールのW杯を時間の許す限りテレビ観戦するつもりだ。日本チームの健闘を祈る。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年11月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。