今日、本措置は積極的差別是正よりも「人種を意識した」あるいは「人種を優遇する」入学(許可)と呼ばれることが多い。アリゾナ、カリフォルニア、フロリダなど8州が当該公立大学の実施を禁止したが、有名私立大学は採用に積極的である(State data on colleges considering race in admission)。規模の大きい私立大学100校を調査したバロットペディアによると、2015年12月時点で、アイビーリーグ(名門8校)を含む59校が本措置を採用していた(Consideration of r ace in private college admissions)。
本措置を擁護する理由として先ず挙げられるのが、その主要な対象者である黒人の置かれた歴史的な経緯である。奴隷を祖先に持つ彼らは、抑圧と差別を受けてきた。優遇措置は一つにはこうした過去への補償だと言われる。
しかし、より重要な理由は、黒人やヒスパニックは白人やアジア系よりも貧困や厳しい境遇に置かれる割合が有意に高く、高等教育はこうした状況を抜け出す機会になるからである。貧しい黒人やヒスパニックの家庭は子どもの教育への熱意が乏しく、そうした地域の学校の教育水準も低い。かれらは白人やアジア系よりも不利な教育環境に取り残されており、本措置は不利な条件を補強できる。
教育現場にも学生の多様性というメリットがもたらされる。キャンパスに様ざまな人種や民族が集うことは「人種のるつぼ」アメリカ社会を実感することになる。特権的な境遇にある裕福な白人家庭の子どもは黒人やヒスパニックの人びとと接する機会が少なく、キャンパスの多様性はかれらにアメリカ社会の現実を学ぶ機会を与える。エリート大学がこぞって優遇措置を採用するのはこのためである。また、集団構成員の多様性が高まるほど、新しいアイデア、ユニークな発想が生まれやすい。
しかも、この措置は入学に求められる能力を無視して黒人やヒスパニックの受験生を優先するものではない。アメリカの大学には日本のような入試制度はなく、高校時代の成績、エッセイ、推薦状、課外活動、共通テストの結果、面接の6項目を総合的に評価して合否が決められる。人種もしくは少数民族というバックグラウンドはこれらに加えられる1項目に過ぎないのである。
だが、一般のアメリカ人の支持は低い傾向にある。ワシントンポスト紙が10月7日〜10日に実施した世論調査によると、63%がこの措置を禁止すべきだと回答した(The Washington Post, Oct. 22, 2022)。この世論の動向は保守派判事の追い風になるだろう。裁定は来年初夏の予定である。