事故により脊髄を損傷すると、足や下半身の麻痺により歩けなくなる場合があります。

しかし粘り強い研究の結果、それら脊髄損傷の患者たちに希望の光が差しています。

最近、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)に所属する神経科学者グレゴワール・コウティーヌ氏ら研究チームは、麻痺状態で歩けなかった患者たちの脊髄を辛抱強く電気で刺激しつづけることで、本来歩行に必要なかった神経を歩行用神経として利用できるようになったと発表しました

これまで脊髄が断裂している状態ではいくら頑張っても歩けるようになりませんでしたが、継続的な電気刺激と激しいリハビリのお陰で、歩くための神経回路そのものが作り変えられていたのです。

しかしいったいどんな神経が、歩行用に転用されていたのでしょうか?

研究の詳細は、2022年11月9日付の科学誌『Nature』に掲載れています。

9人の麻痺患者が歩けるように

私たちの歩行を制御する神経細胞(ニューロン)は腰付近の脊髄にあります。

脊髄損傷により歩行できなくなる
Credit:Canva

そのため脊髄のどこかを損傷すると、脳から送られる一連の信号を混乱させ、仮に足のニューロンが無傷だったとしても、歩けなくなります。

しかし2018年、コウティーヌ氏ら研究チームは、脊椎下部の神経に電気パルスを送る「硬膜外電気刺激(EES)」と集中的なリハビリを組み合わせることで、3名の脊髄損傷患者を再び歩かせることに成功しました。

刺激されたニューロンの視覚化
Credit:Grégoire Courtine(EPFL)_Scientists identify neurons that restore walking after paralysis(2022)

とはいえこの時点では、電気刺激がどのように麻痺を回復させたのか、回復メカニズムの詳細は明らかになっていませんでした。

そして現在、コウティーヌ氏ら研究チームはこの方法を拡張しています。

新しい研究では、9名の脊髄損傷患者(うち3名は完全麻痺)を対象に治療を行いました。

患者たちは、脊椎に埋め込まれた無線パルス発生器から与えられる電気刺激とリハビリを組み合わせたトレーニングを続けました。

脊髄に電気刺激を与える「硬膜外電気刺激(EES)」
Credit:Grégoire Courtine(EPFL)et al., Nature(2022)

彼らは5カ月間、週に4~5回、EESをオンにして、サポートを受けながら立ったり歩いたりしたのです。

その結果、参加者全員が自分で体重を支え、歩行器を使用して歩けるようになりました。

またそのうち4人は、歩く際にEESのスイッチを入れる必要がなくなりました。

これは、電気刺激が「歩行」に関する脊髄の信号経路が回復させたことを示唆しています。

そして今回は、この成功例と分析から、新たな発見がもたらされました。