陰謀論同士の矛盾は「より高い抽象的な思考」でなかったことにされる
学問の世界であっても、ときに人々の間で異なる説がとなえられることがあります。
しかし物理や数学など学問の世界では一般に、対立する説は互いに排除しようとします。
たとえばかつてアインシュタインは量子世界の不気味な「量子もつれ」について否定的な立場をとっていました。
一方で2022年のノーベル物理学賞を受賞した研究者たちはアインシュタインの主張を否定し「量子もつれ」を実験的に証明します。
このように科学の世界では、1つの説が優位になると他の説は衰退していきます。
しかしこれまでの研究により、陰謀論の場合はやや異なることが示されてきました。
たとえばある陰謀説では「ワクチンは支配のツールである」としている一方で別の陰謀説では「ワクチンは人類全体を不妊にする毒である」と主張されています。
非陰謀説の場合には先に述べたように、2つの矛盾する説は互いに非難・競争しあいながら、一方が他方を排除しようとします。
しかし陰謀論者たちの世界ではこれら2つの説「ワクチンは支配のツールである」「ワクチンは人類全体を不妊にする毒である」が同居しており、陰謀論者たちは矛盾についてあまり重要でないと考えていることが報告されています。
なぜならば、陰謀論者の脳内では異なる説に対して、より高いレベルの抽象化が行われ、勝手に解決されてしまうからです。
陰謀論者たちにとって重要なのは政府や多数派が主張する事実の裏には、悪意ある黒幕がいるということであり、ワクチンが支配のツールか不妊毒であるかは「大きな真実」の前には大した問題ではないと考えられているのです。
しかしこのような歪んだ認知は正常とは言えません。
陰謀論にどっぷりはまり込んでいる人々の脳内では何が起きているのでしょうか?
陰謀論者と統合失調症患者の類似点
研究者たちは、今回の研究で明らかになった陰謀論の特性は人間の認知機能の解明に役立つとも述べています。
陰謀論では無関係な複数のトピックが驚くべき飛躍によって合成されていますが、論調や精神的表現は首尾一貫しているように感じさせる場合があります。
複数の分野にまたがるトピックの合成は、本来ならば複雑な思考や膨大な証拠を要するにもかかわらず、陰謀論者は少ない証拠で迅速に結論に至ります。
こうした思考の飛躍は、名探偵や天才科学者のひらめきに似て見えるかもしれません。
しかし陰謀論の場合、その根拠となるものが事実ではなく、別の陰謀論となっているのが問題です。
このような特性は、統合失調症など一部の精神病においてみられるものと同じです。
統合失調症と陰謀論の相関性は極めて高く、統合失調症の人は事実や主張の整合性を飛び越えて、普通の人に比べて遥かに少ない証拠で迅速な結論に辿り着いてしまいます。
そのため研究者たちは、陰謀論の研究をすることで、統合失調症など人間の精神病理について多くの知見を得られる可能性があると述べています。
また今回の研究から見られた陰謀論の特性は、陰謀論が異常なほど多彩なトピックを合成された内容を持ち、別の陰謀論を根拠にしていることが示されました。
そのため研究者たちは陰謀論の特性を理解することができれば、陰謀論を自動検出して排除する自動アルゴリズムやAIを開発できると述べています。
参考文献
The conspiracy theorist ‘worldview’ and the language of their argument
元論文
Interconnectedness and (in)coherence as a signature of conspiracy worldviews