先月28日、アメリカ南東部・フロリダ州に、大型ハリケーン「イアン(Ian)」が上陸し、甚大な被害をもたらしました。

すでに70名を超える死者が出ており、現在も孤立した地域などで懸命な救助作業が続いています。

しかしその中で、思わぬ事態が発生しました。

なんと、同州リー郡にあるフォートマイヤーズ(Fort Myers)の市街地で、冠水した道路に「サメ」が出現したのです。

第一発見者のドミニク・キャメラッタ(Dominic Cameratta)さんは、28日(水曜)の朝に、自宅前の水没した道路で、何かが動いているのを目撃し、急遽、スマホで撮影を行ったという。

この動画は、わずか1日で1200万回以上閲覧され、SNS上で大きな注目を集めています。

一方で、高潮や洪水時に街で撮影されたサメの写真や動画には、デマが多いのも事実。

果たして、この動画はホンモノなのでしょうか?

子どものサメが沿岸部に押し流されたか

キャメラッタさんが撮影し、現在、SNSでバズっている映像がこちらです。

確かに、それほど大きくはないものの、サメのようなヒレを持つ魚が冠水した道路を泳いでいるのが見えます。

キャメラッタさんは、AP通信の取材に対し、こう話しています。

「私自身はそれが何なのかわかりませんでした。ただ、魚のように見えただけです。

ズームインしてみると、私の友人たちは皆、『サメみたいじゃないか!』と言っていました」

目視ではありますが、その魚の全長は、おおよそ1.2メートルくらいあったという。

もう少し長く撮影されている映像がこちらです。バタバタと活発に泳ぐ姿は、やはりサメに近いものがあります。

映像を見たSNSユーザーの一部では、「リアルシャークネードだ」という声が見られました。

『シャークネード』(Sharknado)とは、2013年に公開されたアメリカのSFディザスター映画で、水上竜巻が海からサメを吸い上げて、ロサンゼルスの街に解き放つというトンデモストーリー。

タイトルはお察しの通り、「サメ(Shark)」と「竜巻(tornado)」をかけ合わせた造語です。

では、話を戻して、肝心の専門家の見解はどうでしょうか?

フロリダ自然史博物館(FLMNH)のサメ専門家であるジョージ・バージェス(George Burgess)氏は「サメの幼魚のようだ」と指摘。

「オオメジロザメ(Bull Shark)の幼個体はよく、河川や河口、亜熱帯湾といった塩分濃度の低い水域に生息し、沿岸部の運河や池のように、海へとつながるフロリダ州の水域で、今回と同じように撮影されることが多々あります。

目撃された場所と日付が正しいとすれば、サメが海面の上昇とともに沿岸部に押し流された可能性が高いでしょう」

オオメジロザメの成体
Credit: ja.wikipedia

ビデオの偽造についても当然疑いがかけられましたが、AP通信は、オリジナルのビデオクリップのメタデータの分析から、それが28日(水曜)の朝に撮影されたもので間違いないことを確認しています。

つまり、キャメラッタさんの撮影した映像は、フェイク動画ではなく、ホンモノだということです。

さらに、フロリダ国際大学(FIU)のサメ学者として著名なヤニス・パパスタマティウ(Yannis Papastamatiou)氏によれば「サメの多くは、ハリケーンが到来する前に、気圧の変化を感じ取って浅い入江から逃げ出す」という。

「今回は、その過程で偶然に、フォートマイヤーズの小川に泳ぎ着いたか、あるいは流された可能性がある」と述べています。

この個体が今どこにいるかは分かりませんが、そのサイズからして、遭遇した人を食い散らかすほどの危険性はないでしょう。

ちなみに、『シャークネード』(2013)の予告編はこちらです。

参考文献

Shark tale? Video of large fish in flooded Florida yard goes viral