トランプ訴追に動き始めた司法省

ドナルド・トランプ前大統領は現在、議会襲撃事件における関与の度合い、ジョージア州の選挙結果への介入、脱税疑惑、機密文書の持ち出しなど、様々な事柄についての法的追及を受けている。

つい数週間前までは、トランプ氏の「訴追」という二文字が現実味を帯びる日が来るとは筆者は思わなかった。なぜなら、それに伴うコストが司法省とそれを束ねるバイデン政権にとっては許容できないものだと想定したからだ。

仮に司法省はトランプ訴追に踏み切れば、それをトランプ氏の支持者が許すはずがない。2021年1月6日の議会襲撃事件はトランプ氏のために命を賭けてでも、暴力に訴える支持者の存在を明らかにした。そして、もしトランプ氏が実際に訴追されたならば、トランプ氏は自身が政治的思惑によって魔女狩りを受けていると発信し、それを真に受けた支持者が司法当局や情報捜査機関の施設や人員を襲うシナリオは十分考えられた。

そのため、国内テロを惹起しかねない可能性があることから、司法省はトランプ氏の起訴、それを示唆する行動に及ぶことに躊躇するか、又は訴追自体が論外として扱われているのではないかと筆者は考えていた。

トランプ氏 公式HPより

大胆さを見せるガーランド司法長官

しかし、数週間前のFBIがトランプ氏の邸宅を家宅捜査するという大胆な行動に出てから筆者の司法省の姿勢に対する認識は変わった。FBIの一件で、少なくとも、十分な証拠が揃えば、トランプ氏の訴追を躊躇しないというメリック・ガーランド司法長官率いる司法省の気迫が感じられた。

これまで、ガーランド氏はトランプ氏を起訴することに対して煮え切らない態度を取っているように見えた。それに対して、バイデン政権からは不満の声が上がっていた。ニューヨーク・タイムズ紙はジョー・バイデン大統領は側近に向けてトランプ氏が起訴されることを望む発言をしており、ガーランド氏が思慮深い裁判官ではなく、断固とした行動を取る検察官のような行動をとってほしいとも述べていたと報じた。

だが、上記のバイデン氏の不満は杞憂に過ぎず、今回の一件で政治的コストを鑑みずに、法を執行させる決意がガーランド氏にあることが見えた。

逮捕されても、トランプ氏は大統領選に出れる?

司法省がトランプ氏起訴が着実に進みつつあるという現状は熱狂的な反トランプ層、民主党支持者にとっては長年の望みがやっと叶いつつあるという心情であろう。これらのグループはロシアとの共謀によってクリントン氏を敗北に追い込み、被選挙権がはく奪されてもおかしくなかった二回の弾劾裁判を共和党の及び腰で無罪放免になったトランプ氏を蛇蝎の如く嫌っている。

だが、例えトランプ氏が起訴をされたとしても、そのこと自体はトランプ氏が大統領選に出馬することを防ぐ防波堤にはならない。訴追をされた段階では推定無罪であるため、罪状が確定されない限りは被選挙権がはく奪されることは無い。トランプ氏も、これについて認識しており、保守系ラジオ番組にて起訴自体は自身が大統領選に出ることを妨げないと言及している。

また、アメリカの場合だと有罪判決を受けて、収監されたとしても大統領選に出る資格は奪われない。1920年にアメリカ社会党のユージン・デブスは米国の第一次世界大戦の参戦に反対する工作を行い収監されていたが、同年の大統領選挙に出馬し、全得票数の3.5%を獲得している。1992年には陰謀論者のリンドン・ラルーシ氏が監獄から大統領選に出馬している。

これらの前例から、仮にトランプ氏が訴追され、有罪が確定されたとしても、大統領選に出ることが可能であり、収監中の身でありながら大統領に就任できることが理論上はあり得ることが憲法学者から指摘されている。反トランプの人たちがいかに望もうとも、トランプ氏の出馬を拒否する確実な方法は見当たらないのである。

共和党はついにトランプを見放すか?

反トランプ派だけではなく、共和党内でもトランプ氏が出馬して欲しくないと実際は思っているはずだ。トランプ氏にアンチが多いこともあって彼が大統領になってから、共和党は上下両院だけではなく、ホワイトハウスも失った。また、彼の党内での影響力、資金力に匹敵する候補がいないため、大統領志望の共和党政治家たちはトランプ氏と対峙することを躊躇している。それゆえ、2024年の予備選もこのまま行けば、トランプ氏の独壇場となりそうな状況に見える。

トランプ氏が実際に訴追されて、有罪宣告までされたならば、共和党はついにトランプ氏へ向けられている忠誠をロン・デサンティスフロリダ州知事などに向けるのだろうか?強まるトランプ氏に対する司法省からの追及を前に、共和党が離反を示すのか、トランプ氏との一体感を強めていくのかどうかは見物である。