内藤さんは腕時計に関してかなりの知識を持っている。しかし、それは趣味的な知識ではない。
「たとえばパネライやフランク・ミュラーがどういう腕時計であるかは知っています。でも、それは役作りに必要だから知っているだけでね。こういう役ならこういう腕時計をするだろうってイメージするための、あくまで俳優として必要な知識なんです。だからふだんから雑誌を見たり、スタイリストさんに教わったりして勉強しています。ただ、自分でそれをするかというと別の話で、腕時計で自分の趣味やステイタスを表現することには興味ないんです」
そんな内藤さんが愛用する腕時計は、シンプル極まりないグランドセイコーだ。 「年齢的なものもあるし、見やすくて落ち着いたセイコーがいいだろうってことで、大阪の百貨店で女房と歩いていたときに衝動買いしたものです。俳優って現場ではずっと衣装なんで、腕時計を外すことが多いんです。家と現場の往復くらいしか腕時計をしている時間がないんですが、これはパワーリザーブが強力でそれでも十分ゼンマイが巻けるし、残量表示もあるんで便利なんですよ」
日常的にはあくまで実用重視。使えればなんでもいいし、服装もジャージで構わないという。しかし、俳優としては非常に細かく腕時計をチョイスする。その意識の高さは非常に徹底したものだ。
「たとえば『検事・朝日奈耀子』で性格の優しい検察事務官を演じたときは、柔らかいイメージのある革ベルトの腕時計を選びました。逆にちょっと堅い役を演じるときはメタリックなものを選ぶとかね。役柄によって腕時計が重要になることも多いので、腕時計選びも気が抜けませんね」
その意識の高さゆえ、どうしても気になることがあるのだという。
「これは声を大にして言いたいんだけど、俳優が演技するときは腕時計は止まった状態にしてほしいと思うんです。というのは、ドラマの世界の時間と現実の時間は全然違うものだから。1分間の演技で、30分を表現することだってあるわけじゃないですか。そのときに腕時計という現実の時間が腕にあると、すごく興醒めしちゃうんです。もちろん腕時計がアップになるシーンなどは別ですけど、そうじゃなければ俳優も現実の時間と切り離した状態になってほしい。ミュージシャンも同じですね。現実には5分の曲であっても、その音楽に入り込んで聴いている方は時間を忘れて聴いていたいと思っている。だから俳優やミュージシャンに限らず、表現者が何か演ずるときは、時計は外していてほしいなといつも思うんです」
POWER Watch No.52(2010年5月)掲載 取材・文◎巽 英俊/写真◎笠井 修
提供元・Watch LIFE NEWS
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