2022年7月は足元の新規感染者数が急増しており、7月前半に開始される予定だった「全国旅行支援」が延期されました。

ただしコロナウイルスをめぐる政府の対応や人々の意識が変わりつつあり、感染状況と観光業の回復度合いがどこまで相関するかは不透明です。実際にJTBは、夏休みの旅行動向について「コロナ前水準まで回復」と予測しています。

インバウンド(海外からの入国)については、6月の観光を目的とした訪日客が「252人」にとどまっており、外国人観光客を受け入れる仕組みの改善が必要です。

この記事では、7月の宿泊業界動向についてまとめます。

目次
新規感染者急増の一方、外出・旅行等に対する意識に変化
 ・新型コロナに対する政府の対応や意識に変化が
 ・夏休みの国内旅行人数予測、ほぼコロナ禍前の水準まで回復か
 ・「全国旅行支援」開始延期に
宿泊業界主要ニュース
 ・NECが観光DX推進、伊勢市と提携
 ・電子チケットの導入進む
 ・無料周遊バス運航開始、レンタカー台数減少受けて
 ・2階建てバス運行、ニセコ
 ・レンタサイクル実証実験開始、北杜
 ・ハウステンボス売却か
 ・「高付加価値」「持続可能」重視へ/経団連

新規感染者急増の一方、外出・旅行等に対する意識に変化

2022年7月以降、新型コロナの感染者数が全国で急速に増加し、「第7波」に突入しました。

全国では感染者数が10万人を超える日が続き、過去最多の感染者数を更新する県もありました。

歯止めがかからない新型コロナの感染急拡大に対して、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発令される可能性は低いものの、夏季休暇やお盆時期を目の前に旅行ムードがしぼむ動きが懸念されます。

また、欧米などを中心に報告が相次いでいる「サル痘」が国内で感染確認されたことも、観光業界にとって気がかりのひとつとなっています。

新型コロナに対する政府の対応や意識に変化が

感染拡大の一方で、新型コロナに対する政府の対応や意識に変化が起きています。

7月28日に行われた全国知事会議では、社会経済活動の維持や医療機関、保健所の負担軽減を目的に、新型コロナの分類を2類から5類相当に引き下げる案や対策が検討され、国に緊急提言を行いました。

この全国知事会議での意見を受けて、政府は現時点での5類への変更が現実的でないと判断したものの、今後丁寧に検討を進めていくという姿勢を示しています。

また、政府は、新型コロナ感染対策において屋外でのマスク着用を求めない方針も公表しています。

観光需要が高まり規制が緩和されていく中で、感染予防にどのような対応や意識を求めるのか、あるいは求めないのか検討する必要があります。

※8月17日に、感染者数の全数把握の是非などをめぐり、加藤厚生労働大臣と分科会の尾身会長が意見を交わしました。今のところ具体的な変更方針は示されていませんが、今後、全数把握の見直しや分類変更がなされる可能性はあります。

夏休みの国内旅行人数予測、ほぼコロナ禍前の水準まで回復か

JTBの「2022年夏休み(7月15日~8月31日)」旅行動向調査では、国内旅行人数は7,000万人(前年比175%、19年比96.7%)と、ほぼコロナ禍前の水準まで回復すると予測されています。(調査は7月7日時点)

また、ANAホールディングスも7月7日に開かれた記者会見で、7月と8月の国内旅客数はコロナ禍前の水準まで回復する見込みであることを明らかにしました。

全日本空輸(ANA)の井上慎一社長は、感染者数の増加が旅行を避けることにつながる単純な構造にはならないとの考えを示しており、感染者数が増加しても旅行をキャンセルしない層が増えてくる可能性があります。

「全国旅行支援」開始延期に

観光庁は7月14日、近隣住民(県および地方ブロック)に限られる「県民割支援(地域観光事業支援)」の対象を拡大する「全国旅行支援」の開始を延期することを決定しました。当初は7月前半に開始予定としており、夏休みシーズンの観光を後押しすることを期待されていた観光支援施策でしたが、新規感染者の急増が開始延期につながることとなりました。

「全国旅行支援」の実施時期はまだ明確に決まっておらず、斉藤国土交通大臣は「今後、感染状況を注視しながら改善が見られれば速やかに実施する」方針を明らかにしています。

また、今回の「全国旅行支援」の開始延期を踏まえ、観光庁は7月14日宿泊分までの実施としていた「県民割支援」の実施期間を延長することを決定しました。これにより、実施期間は8月31日宿泊分(9月1日チェックアウト)までとなっています。

ただし、「県民割支援」の実施可否は都道府県の各知事が判断するため、今後の感染状況によっては中止される可能性もあります。

宿泊業界主要ニュース

次に、宿泊業界に関する7月の主要ニュースをお伝えします。

各地では、繁忙期である夏休み期間に向けてさまざまな取り組みがなされています。

全国的な観光DX推進や無料周遊バスの運行、HISによるハウステンボス売却検討など、宿泊業界に見られる大きな変化を紹介していきます。

NECが観光DX推進、伊勢市と提携

NECは、ORIGINAL Inc.、一般社団法人 日本地域国際化推進機構の二社、さらにスマートシティ伊勢推進協議会と連携し、2022年7⽉22⽇〜10⽉31日にかけて観光を通じた伊勢市の活性化に向けて実証事業を開始することを発表しました。

6月の訪日観光客「252人」にとどまる/夏休みの旅行、JTBが「コロナ前水準まで回復」と予測【宿泊業界まとめ 2022年7月】
(画像=▲「Desika:伊勢でしか」(イメージ):NEC、『口コミラボ』より引用)

本実証事業では、観光資源の多様化や観光客データ分析などを目的としており、LINE公式アカウント「Desika:伊勢でしか 」を通じてサービスを提供します。

「Desika:伊勢でしか」にはガイドコンテンツ『伊勢市駅周辺でしかできないこと』が収録されており、LINE上でおすすめの観光スポットや店舗の紹介や特典を配信することで、伊勢市に来訪する観光客の滞在体験の向上を図ります。

LINEと連携してデータ収集ができるNECのイベントDXサービス「FORESTIS(フォレスティス)」を活用し使用率などのデータ収集と分析を行うことで、観光資源の多様化などによる来訪者の周遊促進や滞在時間の延伸などの効果や、今後の伊勢市の観光課題の発見と解決が期待されています。

電子チケットの導入進む

岐阜県各務原市は、名古屋鉄道、岐阜乗合自動車株式会社と提携して、夏休み期間における同市への観光誘客と公共交通の利用促進を目的に、夏休み限定デジタルチケット「おでかけきっぷ」を発売しました。

「おでかけきっぷ」は、対象の岐阜バス路線等の乗車券と各務原市内の観光施設の入館券などがセットになったもので、7月16日~8月31日の期間にエリア版MaaSアプリ「CentX」にて販売されています。

名鉄グループが沿線自治体と連携してデジタルチケットを造成するのは初の取り組みで、今後も沿線自治体との連携強化や、「CentX」のさらなる機能拡充と魅力向上に努める姿勢を示しています。

また、長崎県でも電子チケットの導入が開始されています。

6月の訪日観光客「252人」にとどまる/夏休みの旅行、JTBが「コロナ前水準まで回復」と予測【宿泊業界まとめ 2022年7月】
(画像=▲長崎県営バス往復券&長崎ペンギン水族館観覧券セットチケット イメージサンプル:STLOCAL、『口コミラボ』より引用)

長崎県交通局は、長崎ペンギン水族館および株式会社ゼンリンと提携し、 長崎県営バス(路線バス)の往復乗車券と長崎ペンギン水族館の観覧券がセットになったお得なチケットを発売開始することを発表しました。

チケットは7月21日からゼンリンの観光型 MaaS アプリ「STLOCAL(ストローカル)」にて販売されており、長崎市の観光消費向上、及び公共交通の利用促進を目的にした観光の取り組みとなります。

無料周遊バス運航開始、レンタカー台数減少受けて

新型コロナ感染拡大の影響を受けて、レンタカー会社はレンタカーの保有台数を削減する傾向にあります。

全国レンタカー協会によると、2021年3月末時点でレンタカー会社のレンタカー保有台数は前年比8%減の884,189台となりました。

全国的に観光需要が高まる一方、レンタカーの供給不足が顕在化しており、レンタカーの予約が取れずに困っていると訴える観光客も増えています。

大人数の観光客受け入れも難しい状況の中、レンタカー不足に対応しようと、国からの補助金を市町村が活用して無料の周遊バスを導入する動きも見られます。

沖縄県国頭郡本部町では、観光客を対象に繁忙期である夏休み期間の7月11日〜9月30日に、本部港やホテル、海洋博公園など各観光地を結ぶ無料周遊バスを運用し、レンタカーが取れなかった観光客に対応しています。

周遊バスの導入について、町観光協会の當山清博会長は「コロナ後を視野に満足度を高めてリピートにつなげたい」とコロナ禍後の観光回復も見据えた考えを示しています。

沖縄県だけでなく全国的にレンタカーの供給不足が相次ぐ中、今回の事例が他の地域のモデルケースになれるかがレンタカー不足対応の鍵となりそうです。

2階建てバス運行、ニセコ

株式会社ニセコリゾート観光協会は、一般社団法人倶知安観光協会と共同で2階建てオープントップバス「スカイバスニセコ」の運用を開始しました。

6月の訪日観光客「252人」にとどまる/夏休みの旅行、JTBが「コロナ前水準まで回復」と予測【宿泊業界まとめ 2022年7月】
(画像=▲スカイバスニセコ:株式会社ニセコリゾート観光協会、『口コミラボ』より引用)

昼間は「ニセコパノラマ号」、夜は「ニセコナイト号」として1日最大16便をシャトル型で運行し、ニセコならではの大自然や牧場、地ビールを満喫する観光体験を取り入れている観光振興企画となっています。

また、週末と休日の「朝限定」で、朝の温泉体験や、小川原脩美術館やニセコ蒸留所等の各施設の貸し切り特別解説など、ニセコリゾート観光協会が企画する「スペシャルモーニングツアー」が開催されます。

実施期間は7月15日~8月28日の間で、スペシャルモーニングツアーには温泉ソムリエや地元在住の写真家など現地案内者が同行する形で提供されます。

レンタサイクル実証実験開始、北杜

山梨県は、山梨県立美術館および北杜市内の民間美術館3館と策定した「山梨県文化観光推進地域計画」の計画のひとつとして、電動アシスト自転車のレンタサイクル実証実験「COGICOGI北社」を実施することを発表しました。

6月の訪日観光客「252人」にとどまる/夏休みの旅行、JTBが「コロナ前水準まで回復」と予測【宿泊業界まとめ 2022年7月】
(画像=▲レンタサイクルCOGICOGI:山梨県、『口コミラボ』より引用)

「山梨県文化観光推進地域計画」は文化観光施設を中心とした地域における文化観光の推進を目的としたもので、同実証実験では交通アクセスおよび来館利便性の向上を図り、自由度の高い地域内観光の実現を目指します。

レンタサイクル利用者は事前に専用アプリをダウンロードし、アプリで事前決済後に利用可能となります。

実施期間は7月15日〜3月31日で、文化、自然、食の3つの要素を軸とした文化観光を通じて、「Well-being」(健康、共生、幸福)の価値を実感することができる観光モデルの構築を狙います。

ハウステンボス売却か

HISは香港の投資会社にハウステンボスを売却する意向であると、読売新聞など複数の報道機関が報じました。

HISは、現在のところ大幅な赤字を抱えており、ハウステンボスを売却することで手元の資金を確保することが狙いだと思われます。

HISは「株式の譲渡を含め様々な検討を行っておりますが、現時点において具体的に決定した事実はございません。」と、売却報道にコメントしましたが、ハウステンボスの株式を一部保有するJR九州の社長が「打診があった」と明かすなど、売却への動きは実際にあったと思われます。今後の動きに注目です。

「高付加価値」「持続可能」重視へ/経団連

7月14日、「週刊経団連タイムズ」に経団連の観光委員会のオンライン会合の概要が公開されました。

新型コロナの規制緩和によるインバウンドの回復を期待して、JNTOでは誘客、航空路線回復に向けた航空会社や旅行会社とのプロモーションの展開を予定していることを明らかにしました。

さらに、中長期的な取り組みとして、高付加価値旅行市場の開拓、持続可能な観光の推進、国際会議の誘致等を掲げています。

新型コロナ前は多くの外国人観光客が日本を訪れた一方で、旅行消費額は目標値には届かない結果となりました。

コロナ禍以前、国内観光とインバウンド観光の比率は8対2であったことからも、国内観光とインバウンド双方において、1人当たりの消費単価の高い旅行市場の高付加価値化を図ることが重要であるとの考えを示しています。

また、JNTOの海外向けSNSを活用して、地域の観光情報や「持続可能な観光」のコンセプトに沿った各地の観光コンテンツなどの海外への情報発信を強化していく方針も明らかにしています。