東京にある個性的な地ビールブルワリーを訪問。醸造所を見学しながら、ビール造りにかける思いをインタビュー。併設されたレストランや売店にも立ち寄り、そのブルワリーならではの地ビールの魅力を探る。

今回は、土蔵造りの敷地にいくつもの楽しみが散りばめられた福生市の「石川酒造」を訪れた。

目次
■明治期以来のビール造りを復活
■伝統と挑戦の2つのフラッグシップ

■明治期以来のビール造りを復活

【東京の地ビールで乾杯 vol.2】土蔵散歩で巡る、酒飲みのテーマパーク「石川酒造」(福生市)
(画像=石川酒造の入口にあたる門、『男の隠れ家デジタル』より引用)

福生を流れる玉川上水の熊川分水近くに土蔵造りの建物が見えたら、そこが「石川酒造」。1863年に日本酒の蔵元として創業し、159年の歴史を持つ酒蔵である。現在に続く地ビール造りがスタートしたのは、1998年のこと。規制緩和による地ビールブームが落ち着いた頃だった。

しかし、実は1887年の明治期に一度ビールを醸造していた歴史がある。石川家の当主は代々石川彌八郎を名乗ることになっているが、現当主・18代目の祖祖父にあたる14代目の頃だった。つまり再スタートにあたっては、かつて断念したビール醸造の復活させたい、との並々ならぬ決意があったのだ。

【東京の地ビールで乾杯 vol.2】土蔵散歩で巡る、酒飲みのテーマパーク「石川酒造」(福生市)
(画像=多摩の恵 ペールエール638円、『男の隠れ家デジタル』より引用)

復活したビールは「多摩の恵」と名付けられた。原料となる水に、日本酒を造るときと同じ清らかな秩父山系の伏流水が使用されているというから、ふさわしい名前だ。主力銘柄は、ペールエール、ピルスナー、デュンケル。なかでもペールエールは2000年の「ジャパンビアグランプリ」で金賞を受賞。金賞のなかでも最高得点を獲得するほど秀逸な出来となっている。

クラシックなスタイルを踏襲する定番に加えて、ブルーベリーを使ったフルーツビールや、小麦麦芽を使ったホワイトビールのヴァイツェンなどの限定ビールが季節ごとに出荷されている。

【東京の地ビールで乾杯 vol.2】土蔵散歩で巡る、酒飲みのテーマパーク「石川酒造」(福生市)
(画像=樹齢400年の夫婦ケヤキ、『男の隠れ家デジタル』より引用)

敷地に入ると、土蔵群や樹齢の長いケヤキの木々がゆったりと出迎えてくれる。土蔵のうち、6棟は国の登録有形文化財に指定されているが、レストランや売店もあり、気軽にくつろげる雰囲気がある。こうして敷地を一般開放することにも、石川酒造らしい理由があると広報の石川雅美さん。

「ビール造りの復活には3年の準備期間があり、当主はヨーロッパやアメリカのブルワリーにも足を運んでいます。欧米では敷地内に庭があって、地域の人が集まって、飲んだり話したりする文化がある。石川家は代々、酒蔵として地域をまとめる役割を担っていました。そのため、ここはビール造りと同時にコミュティ造りを目指して解放されています。“酒飲みのテーマパーク”と謳っているので、気軽に来ていただきたいですね」

■伝統と挑戦の2つのフラッグシップ

【東京の地ビールで乾杯 vol.2】土蔵散歩で巡る、酒飲みのテーマパーク「石川酒造」(福生市)
(画像=(左)ペールエールに使われる麦芽(右)石川酒造で使われている破砕機、『男の隠れ家デジタル』より引用)

ビールが造られているのは、敷地の一番奥にある「向蔵ビール工房」。訪ねてみると、ビール醸造部係長の土屋朋樹さんが明日の仕込みに使う麦芽を破砕機へと運んでいた。石川酒造では、この麦芽の破砕に重点を置いていると土屋さん。

「ビールは麦芽の糖分をアルコール発酵して造られています。破砕の状態で糖分が引き出せるかどうかに関わってくる。無駄なく麦芽を使えるように、種類ごとに粗すぎず細かすぎずの数値で大きさに合わせた破砕を行っています」

【東京の地ビールで乾杯 vol.2】土蔵散歩で巡る、酒飲みのテーマパーク「石川酒造」(福生市)
(画像=(左)発酵具合を確認する土屋さん(右)下が三角になっているのは仕込みをする発酵タンク、『男の隠れ家デジタル』より引用)

次に案内してもらったのが、タンクが並びビールを醸造するエリア。扉を開けると、麦汁の香ばしい香りが漂う。ここには、お湯を沸かすホットリカータンク、攪拌するマッシュタン、煮沸するケトル、発酵タンク、熟成タンクがずらりと並ぶ。熟成タンクは4000lで、全部で9つある。地ビール醸造所としては規模が大きい方だ。

石川酒造は日本酒の蔵元であることから酒販店への販路があり、さらに併設のレストランや街場の飲食店にも卸しているため、ある程度の規模でビールが造られている。

【東京の地ビールで乾杯 vol.2】土蔵散歩で巡る、酒飲みのテーマパーク「石川酒造」(福生市)
(画像=(左)2015年から登場した「TOKYO BLUES」©︎石川酒造(右)クラシックなスタイルの「多摩の恵」©︎石川酒造、『男の隠れ家デジタル』より引用)

1998年以来、「多摩の恵」でクラシックなスタイルを忠実に守り続けてきたが、いまやそれだけではない。18年目となる2015年にオリジナルレシピのビールを開発した。その名も、「TOKYO BLUES」。原料にホップを通常のペールエールの10倍以上もの量を使用したビールだ。

こちらはホップを贅沢に使いながら、煮沸時間が少ないため、柑橘系の豊かな香りと苦味があるのに、後味に嫌な苦味が残らない。多摩の恵に匹敵する出来栄えとなっている。多摩の恵とTOKYO BLUESの2つのフラッグシップがある理由について、土屋さんはこう話す。

「クラシカルなビールを造ることに変わりはありませんが、新しいものにも挑戦したい表れです。季節の限定品やこの酒飲みのテーマパーク巡りを含め、ファンの方には何度でもリピートしてもらいたいと思います」