この世界には記憶アスリート(記憶競技者)と呼ばれる、驚異的な記憶力を持つ人々が存在しており、年に1度行われる世界記憶力選手権で、チャンピオンの座を巡って激しい競争が行われます。

しかし意外なことながら、彼らの多くは写真のように単語や数字の羅列を記憶できるわけではなく、ほとんどは特定の「記憶術」に頼っています。

3月3日に『Science Advances』に掲載された論文では、この記憶アスリートたちが使用している「記憶術」が一般人に対しても恩恵があり、記憶力を劇的に増大させることが示されました。

「記憶術」というと何やら怪しげな印象があっていまいち信頼できませんが、論文が掲載された『Science Advances』は権威ある『Science』系統の名門科学雑誌です。

つまり、ガチよりなガチなライフハック案件ということです。

名門科学雑誌の査読を通った真の記憶術とは、いったいどんなものだったのでしょうか?

目次
記憶力チャンピオンが使う「記憶の宮殿」の科学的有効性が証明!
「実践編」記憶の宮殿を使った記憶法

記憶力チャンピオンが使う「記憶の宮殿」の科学的有効性が証明!

記憶力チャンピオンが使う「記憶の宮殿」の科学的有効性が証明される
(画像=記憶アスリートは超人的な記憶力を持つ / credit: Canva、『ナゾロジー』より引用)

記憶力を競うアスリートたちは、膨大な量の単語や数字を限られた時間で覚えなければなりません。

そこで記憶力アスリートたちの多くは自分好みにカスタマイズされた「記憶術」を使用します。

例えばあるアスリートは、両手両足に番号を振り分け、何百ケタにも及ぶ数字の暗算をダンスの振り付けとして記憶します。

また別のアスリートは、数字を語呂にして単語を生成し、ストーリーに組み込むことで記憶します。

ダンスや脳内ストーリーは一見すると共通点に乏しいように思えますが、両者とも「分割」と「流れ」が存在するのです。

記憶アスリートたちは無味乾燥な数字の羅列を振り付けや物語の起伏としてパッケージングすることで分割管理し、そして全体に及ぶ流れに再配置することで復元します。

この分割と再配置はあらゆる記憶術の基本となっている核心的な要素です。

ですが、知識の分割と再配置は、記憶アスリートでない一般人であっても、多かれ少なかれ日常生活の中でおこなっています。

そこでウィーン大学のワーグナー氏らは、一般人であってもプロが使うような本格的な記憶術を体得すること自体は可能だと考え、科学的に証明しようと試みました。

もし予測が正しければ、記憶アスリート並みとはいかないものの、一般人の記憶力を劇的に増加させられるはずです。

しかし記憶術が複雑すぎれば離脱者が続出して実験は失敗するでしょう。

そこで研究者たちは最も基本的な「記憶の宮殿」と呼ばれる技法を、一般参加者に試してもらうことにしました。

結果、実験に参加した一般人たちの記憶力の劇的な増加が確認されます。

それではその具体的な方法を見ていきましょう!

「実践編」記憶の宮殿を使った記憶法

記憶力チャンピオンが使う「記憶の宮殿」の科学的有効性が証明される
(画像=記憶すべき単語を記憶の宮殿の中に配置し詳細にイメージする / credit: Canva、『ナゾロジー』より引用)

ここでは以下の5つの単語を記憶する場合を例に説明します。

もちろん、今は覚える必要はありません。

関連性のない単語の羅列であることを確認するだけで大丈夫です。

◎ 空き缶

◎ 鶏肉

◎ ひまわり

◎ スマートフォン

◎ やかん

通常、私たちの脳は、このような関連性のない単語を覚えるのは苦手です。

一時的に覚えられたとしても、短ければ数分~1日で完全に忘れてしまいます。

ですが「記憶の宮殿」を使った記憶術は、私たちの記憶に革命をもたらしてくれます。

それでは実際に記憶の宮殿を使った記憶を試してみましょう。

「記憶の宮殿」をおこなうにあたって最も重要なステップは、文字通り自分の頭の中に架空の宮殿を設定することにあります。

といっても、中世ヨーロッパやアラブの宮殿である必要はなく、自分にとって最も馴染み深い場所…例えば自宅の玄関から続く廊下や階段、自室で大丈夫です。

ただし1つだけ重要な点があり、思い描く場所のイメージは鮮明かつ具体的でなければなりません。

自分にとって細部までイメージしやすい空間を構築します。

詳細にイメージできた場所が、あなたにとっての「記憶の宮殿」になります。

宮殿のイメージが完成すれば、いよいよ実戦です。

あなたは記憶の宮殿の入口から出口に向かって歩きつつ、上にならべられた5つの物体のリストをチラチラ見ながら順にイメージし、宮殿内に配置していきます。

配置する時には意識を宮殿に向けるために、目を閉じてください。

また、歩くルートは可能な限り単純にするのがコツです。

つまり廊下ならば一直線上に置いてゆき、自室ならば一回りするように置いていきます。

また可能ならば配置するときの向きや場所、状態もイメージしてください。

記憶力チャンピオンが使う「記憶の宮殿」の科学的有効性が証明される
(画像=記憶の宮殿を歩く / credit: Canva、『ナゾロジー』より引用)

5つ全て置き終わったら、いよいよテストです。

あなたは目を閉じたまま宮殿の入口に戻り、最初に歩いたコースを辿るようにして5つの物体を思いだしていきます。

どうでしょうか、5つ全て覚えていられたでしょうか?

実際の研究に参加した一般人たちは、専門のトレーナーから、より本格的な「記憶の宮殿」のトレーニングを6週間にわたり受講しました。

結果、彼らの記憶力に奇跡が起こります。