ヒアデス星団はおうし座の頭を形成している太陽系からもっとも近い星団です。
そのヒアデス星団に、最新の観測から奇妙な痕跡が見つかりました。
3月24日に科学雑誌『Astronomy&Astrophysics』で発表された新しい研究は、ESAのガイア計画による観測データを検証した結果、ヒアデス星団は太陽質量の1000万倍に及ぶ何らかの巨大な塊との接触で破壊されているようだ、と報告しています。
しかし、その巨大な重力源となるような天体は、周囲にまったく見当たらないのです。
ヒアデス星団は、ダークマターの塊によって破壊された可能性があると、研究チームは述べています。
目次
太陽系からもっとも近いヒアデス星団
星団を破壊した見えない塊
太陽系からもっとも近いヒアデス星団
星団とは、星の密集した塊のことを指し、天の川銀河の周辺に数多く確認されています。
この中でも、太陽系にもっとも近いのがヒアデス星団で、我々からは約153光年離れた位置にあります。
この星団のもっとも明るい星たちは、ちょうどV字型を描くように地球からは見えていて、それはちょうどおうし座の頭の部分を形成しています。

このようにヒアデス星団の明るい星は、地球からも肉眼で確認できますが、それは星団のごく一部でしかありません。
実際そこには100個以上の暗い星が、60光年におよぶ球形のコアを作っています。
こうした星団は、内部の星同士の重力相互作用と天の川銀河の潮汐力によって、長い時間の中で引き伸ばされていると予想されています。
重力は空間に均一に掛かる力ではありません。重力源に近い方は強く引かれ、離れている方は弱く引かれます。
このため、物体は重力源に対して前後の方向には引き伸ばされるように力が加えられ、左右の方向からは押しつぶされるように力が加えられます。
こうした力の掛かり方を潮汐力と呼びます。
ヒアデス星団の星たちも、一方が星団の後ろ側へと送り出され、もう一方は銀河側へと引っ張り出されるような形になっていて、これを星団の潮汐尾と呼びます。
ただ、星団の中心から離れるほど星をグループ化することは難しくなります。
これまでの観測では、星団の動きと厳密に一致する星しか追うことができなかったため、6億年以上前に引き離された星は確認することができず、実際ヒアデス星団の潮汐尾を観測で検出することはできませんでした。
しかし、現在進行しているESA(欧州宇宙機関)のガイア計画では、天の川銀河の星の位置と速度を非常に正確にマッピングしているため、これを元にしてヒアデス星団の星の動きを何億年にも渡ってモデル化することに成功したのです。
そして、今まで未知となっていたヒアデス星団の潮汐尾を明らかにすることできました。
それによると、中央のコア部分は60光年ほどのサイズでしたが、星団の潮汐尾は数千光年にも及んでいるとわかったのです。

これが今回の研究の1つの成果なのですが、話はこれだけで終わりませんでした。
星団を破壊した見えない塊
これまで見ることのできなかったヒアデス星団の潮汐尾を明らかにした今回の研究ですが、そこには予想と異なる状態が見つかりました。
星団の潮汐尾に含まれる星の数は、前方の尾と、後方の尾で違いはないはずだと考えられていました。
しかし、観測データとシミュレーションを比較するとヒアデス星団の潮汐尾は、後方の星を失っているように見えたのです。
これは星団が、単にゆっくりと引き伸ばされたわけではなく、なにか劇的な変化を経験していたことを示唆しています。
そこで、研究チームはさらに詳細なシミュレーションを実行し、なにか巨大な塊と星団が密接な相互作用を起こした場合に、現在のような状態になるということを突き止めたのです。

これは約6億5000万年前から現代までのヒアデス星団の進化の様子をシミュレーションしたものです。
画面の左側は天の川銀河の概略図で、黄色い部分がヒアデス星団です。
画面右側は、ヒアデス星団周辺の拡大図です。
どちらの画像でも灰色で示される塊は、分子雲や他の星団など何らかの重力源を示しています。
このGIF画像では、シミュレーションの最後の瞬間を少しスローに編集しましたが、最後の瞬間に何かがヒアデス星団に衝突しているのがわかります。

わかりづらいので最後の部分だけを切り出すと、このように星団に何かが衝突して星の位置を乱しています。
研究チームによると、星団にぶつかったのは太陽質量の約1000万倍におよぶ何らかの塊だといいます。
それは分子雲(星雲のようなガス塊)かもしれませんし、他の星団かもしれません。
しかし、現在星団の周辺を観測しても、この衝突源と考えられるような目に見える構造は見当たらないのです。
星団を破壊するほどの重力源が、検出できないということは通常考えられません。
そのため、研究チームはこれが暗黒物質のサブハローであった可能性を考えています。
暗黒物質は集まって塊のようなものを作っています。これをダークマターハローといい、銀河形成の元にもなっています。
その中には、もっと小さな暗黒物質の集団もあると考えられており、これはサブハローと呼ばれます。
ヒアデス星団を破壊した塊は、現在も捜索中ですが、今後も検出できない場合、それは暗黒物質の塊によって破壊された可能性がかなり高いと言えるでしょう。
今後も同様の痕跡が、銀河の周辺で見つかった場合、見えない暗黒物質をマッピングしていくための貴重な情報源になる可能性もあります。
宇宙には、まだまだ未知のダイナミックな天体が隠れているのかもしれません。
【編集注 2021.04.02 19:30】
記事内容に一部誤りがあったため、修正して再送しております。
参考文献
Is the nearest star cluster to the Sun being destroyed?(ESA)
元論文
The 800 pc long tidal tails of the Hyades star cluster
提供元・ナゾロジー
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