動物たちは、食料の乏しい冬の対策として「冬眠(英: hibernation)」という戦略をとります。特に寒さの厳しい極地付近では、大半の動物が冬眠により物静かに冬を乗り越えます。
しかし、冬眠がいつから始まったのかは分かりませんし、化石中に冬眠の証拠を見つけるのは困難です。
ところが、8月27日付けで、「Communications Biology」に掲載された研究により、約2億5000万年前の南極生物の化石に冬眠をした形跡が発見されました。
冬眠を示唆する化石の中では最古であり、冬眠行動が、哺乳類や恐竜の進化前からすでに存在したことを強く裏付けています。
目次
冬眠を取り入れた最初の生物を発見か?
南極のリストロサウルスにだけ冬眠の痕跡を確認
冬眠を取り入れた最初の生物を発見か?
冬眠の痕跡が見つかったのは「リストロサウルス」と呼ばれる生物で、現生哺乳類の祖先に当たります。
ペルム紀から三畳紀にかけて世界各地に分布し、ウミガメのような口先と生涯成長し続けるキバが特徴的です。
サイズは小柄なものでイノシシほど、大型だと2メートルを超えるものもいました。これまでに、インド、中国、ロシア、アフリカ、南極から出土しており、当時としてはかなり普遍的な生物だったようです。

またリストロサウルスは、陸上生物の70%が死滅した約2億5000万年前の「ペルム紀大量絶滅」を生き延びた存在として、生物の進化と適応の歴史を理解するための重要な研究対象となっています。
今回、冬眠の兆候を示したのは、南極大陸で採取されたキバの化石です。リストロサウルスのキバは死ぬまで成長し続けるので、個体の成長過程が詳しく調べられます。
当時の南極大陸は大部分が極圏内に入っており、冬の時期は日の差さない期間が続いていました。その中で、南極のリストロサウルスは、冬を乗り切るために冬眠を編み出した可能性があります。
南極のリストロサウルスにだけ冬眠の痕跡を確認
研究チームは、環境による成長プロセスの違いを調べるため、南極で採取されたリストロサウルス6頭のキバと南アフリカで採取された4頭のキバを比較しました。
ともに同時代の化石ですが、当時の大陸位置は今とは異なり、南極は極地にほど近く、南アフリカはそれより1000キロほど北側にありました。

キバの断面は、樹木の年輪のようなパターンを示し、そこから代謝やストレス、身体的な緊張レベルが分かります。
その結果、2地点のキバは、似たような成長パターンを示したものの、南極の方にだけ「年輪が密に詰まって太いリング状になる傾向」が見られました。

研究主任のミーガン・ホイットニー氏によると「これは生体が過度のストレス環境にさらされたこと、つまり、冬眠により代謝レベルが低下したことを示す」そうです。
この特徴は、冬眠をする現生動物の歯にも見られます。