人間の細胞を培養して医療に役立てることには、多くの課題が残っています。

例えば従来の細胞培養は、「ペトリ皿の中」のような静的な環境で行われます。

こうした環境では細胞がいわゆる運動不足状態なので、腱(けん)のように曲げ伸ばしする「柔軟な組織」の培養には向いていません。

そこでイギリス・オックスフォード大学(University of Oxford)に所属するピアー・マウスリー氏ら研究チームは、人間のように動くロボット骨格の中でヒト細胞を成長させる実験に取り組んでいます。

まだ概念実証(本格的な実験開始前に行われる簡易な検証)の段階ではあるものの、今回チームはこの培養方法を行った細胞が静的な環境とは異なった成長を遂げたと報告しています。

研究の詳細は、2022年5月26日付の科学誌『Communications Engineering』に掲載されています。

柔軟性のある「腱」の培養は難しい

近年、生物工学は急速に進歩しています。

最近では、人工培養したヒトの脳を乳児段階にまで生育させることに成功したほどです。

とはいえ、なかなか進展が見られない分野もあります。

その1つが腱(けん)の人工培養です。

腱は人間の筋肉と骨をつなぐ結合組織であり、あらゆる方向に伸びたり曲がったりできる特別な柔軟性をもちます。

ロボットの中に人間の細胞を入れて成長させる新しい試み
腱のように伸びたり曲がったりする組織を培養するには? / Credit:nature video(YouTube)_A robotic Petri dish: How to grow human cells in a robot shoulder(2022)(画像=『ナゾロジー』より 引用)

しかし従来の静的な環境で培養した細胞には、そのような柔軟性が備わっていません。

最先端のバイオリアクターを利用しても、腱に期待される動きを再現できないのです。

では、柔軟性のある組織に成長させる方法はあるのでしょうか?

マウスリー氏ら研究チームは、外部刺激を与えつつ細胞を成長させる方法に目を付けました。