デボン紀中期(約4億年前)の地層から、1世紀以上の前に発見されていた正体不明の生物「パレオスポンディルス(Palaeospondylus gunni)」。
これが理化学研究所(理研)の新たな調査により、四肢動物の系統に属することが解明されました。
それも、魚のヒレから陸上脊椎動物の四肢への移行期を埋める「ミッシングリンク」と見られます。
すなわち、人類の最も古い祖先のひとつと考えられるようです。
研究の詳細は、2022年5月25日付で科学雑誌『Nature』に掲載されました。
目次
1世紀以上もつかめなかった正体
パレオスポンディルスの系統位置がついに判明!
1世紀以上もつかめなかった正体
パレオスポンディルス(学名:Palaeospondylus gunni、「古代の背骨」の意)は、英スコットランドにあるデボン紀中期(約4億年前)の地層から産出する化石として知られています。
最初に報告されたのは1890年で、これまでに約2000点見つかっていますが、脊椎動物のどのグループに属するのかは不明でした。
見た目は全長5センチほどの魚型をしており、分類の鍵となる頭骨(形態的特徴が集まっている)の長さは5~6ミリしかありません。
さらに、彼らには歯や頭部表面を覆う皮骨がなく、胸ビレや腹ビレの痕跡も見られません。(ヌタウナギやヤツメウナギなど、アゴを持たないグループの円口類に近い特徴)
その一方で、名前の通り、背骨がよく発達しています。(アゴを持つ脊椎動物の中の後から進化したグループに近い特徴)
この「キメラ的」特徴ゆえに、パレオスポンディルスをどの系統に位置付ければいいのか、これまで見当がつかなかったのです。

また、パレオスポンディルスの化石は、見つかった時点で骨格が破損しているケースがほとんどで、正確な観察が困難でした。
そこで研究チームは、約2000点の化石の中から、頭骨が完全に岩石中に保存されたものを探し、それに該当する化石を2点見つけることに成功。
この希少な化石をシンクロトロン放射光X線マイクロCT(SRXμCT)を用いて、高分解能・高コントラストの断層像を撮影しました。
パレオスポンディルスの系統位置がついに判明!
チームは、得られた断層像をもとに、頭骨の3次元モデルを作成し、形態の特徴を綿密に調べました。
その結果、パレオスポンディルスの頭骨は、下アゴが短いという点を除けば、アゴを持つ脊椎動物の頭骨の形態パターンと一致することがわかったのです。

また、それぞれの骨の形態を調べると、頭骨を口側と後頭部側に二分する頭蓋内関節など、現生するハイギョのような肉鰭(にくき)類と同じ特徴を発見。
とくに肉鰭類の中でも、四肢動物に近い「四肢動物型類」と共通点が多いことがわかりました。
四肢動物型類は、ハイギョ系統と分岐した後、現生の陸上脊椎動物へと至る系統上のグループを指します。(下図を参照)
その中には、「ヒレを持つ動物」と「四肢を持つ動物」の両方が含まれ、系統図上でヒレから四肢への移行を見ることができます。

そして、パレオスポンディルスの系統を過去の研究データと合わせて解析した結果、ヒレから四肢への移行段階に当たる動物と近縁であることが特定されました。
具体的には、ヒジ関節や指の骨格をヒレの中に持っていた動物と、それらを持たない動物の中間に位置します。
つまり、パレオスポンディルスはヒレ〜四肢への移行期をつなぐ「ミッシングリンク」と考えられるのです。
ヒトを含む哺乳類は、陸上の四肢動物から進化しましたが、パレオスポンディルスはその最古の祖先の一つと推定されます。

今回の研究により、130年以上も正体不明だったパレオスポンディルスが、四肢動物の系統に属することが特定されました。
その一方で、歯や胸ビレ、腹ビレがない点については、明確な解答が得られていません。
歯や手足が未発達な状態は、四肢動物の「幼生」によく見られる特徴ではあります。
しかし、パレオスポンディルスの幼生的形態が、成長しきった姿だったのか、あるいは成熟前の姿だったのかはまだわかりません。
チームは今後、パレオスポンディルスと同時代の四肢動物の化石を調査することで、この謎を解明していく予定です。
参考文献
Scientists Think This Strange Fish-Like Creature May Be One of Our Ancient Ancestors
4億年前の謎の脊椎動物の正体解明-シンクロトロン放射光X線マイクロCTによる化石の精密観察-(理研)
元論文
Morphology of Palaeospondylus shows affinity to tetrapod ancestors
提供元・ナゾロジー
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