進化は、実に驚くべき習性をもつ昆虫たちを自然界の中に生み落としてきました。
死んだふりや葉っぱへの擬態など、面白い行動を取る虫はたくさんいます。
中でも特に驚異的かつ残忍な習性をもつのが、「アカンサスピス・ペタックス(Acanthaspis petax)」です。
この虫は「暗殺虫(assassin bug)」という異名がつくほど、狩りの技術に優れています。
一体、どんな習性の持ち主なのでしょうか?
アリの死体を山積みにする目的は?
A.ペタックスは肉食性のサシガメ科の一種で、マレーシアおよび東アフリカに分布します。
その異名の通り、殺しのプロフェッショナルであり、おもな標的はアリ、ハエ、バッタなどです。
殺しの手順は、長い口吻で敵を突き刺すと同時に麻痺剤や筋組織を溶かす唾液を注入し、中身が空っぽになるまで吸い上げます。
しかし、残った硬い外骨格は捨てられません。
彼らはそれを背中の上に積み上げていき、死骸の山を築くのです。
背に乗せるのは基本的にアリの死骸で、粘着性の唾液や排泄物をつかってひと塊りにし、背中に固定します。
ときには20匹以上のしかばねを積み上げ、自分の体も見えないほど大きな山に仕立て上げます。

この不気味な行動の目的は、天敵からの視覚および嗅覚的な偽装と見られます。
2007年に行われた実験では、A.ペタックスの天敵であるハエトリグモに対し、アリ山がどのような効果を持つかが調べられました。
優れた視力で獲物をハントするハエトリグモのケージに、アリ山ありとなしのA.ペタックスを入れます。
すると、アリ山なしのA.ペタックスは、山ありの個体に比べ、襲われる確率が10倍以上も高かったのです。
これはアリ山にA.ペタックスを守る効果があることを示します。
また、死体の山にアリが使われる理由は、ハエトリグモの本能的な恐怖心を利用しているようです。
ハエトリグモは1対1の戦いには強いですが、大群で襲ってくるアリには敵いませんし、実際に群れで襲撃されることがよくあります。
A.ペタックスは、敵の苦手とするアリを背中に乗っけることでハエトリグモの恐怖心をあおり、近づけないようにしているのでしょう。
殺しのスキルだけでなく、自己防衛に優れた昆虫なのです。
提供元・ナゾロジー
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