先史時代の石器の大半は、チャートやフリント(火打ち石)といった堆積岩から作られています。
しかし、約10年前にスペインの古代遺跡で見つかった石器は様子が違っていました。
普通の石ではなく、無色透明の水晶が材料に使われていたのです。
その石器は「クリスタル・ダガー(水晶の短剣)」と命名され、詳しく調べられました。
古代人はどんな意図で水晶を使うにいたったのでしょうか。
研究は、2015年に『Quaternary International』に掲載されています。
古代のクリスタルは「魔法の力」の象徴だった
クリスタル・ダガーは、2007〜2010年にかけてアンダルシア州セビリアで発掘された遺跡「モンテリリオ・トロス」で見つかりました。
この遺跡は全長44メートルに達し、内部からは多数の武具や副葬品が出土しています。
武具の中には、二十数個の矢じりが発見され、すべてクリスタルが使われていました。
また、男女25人分の遺骨も見つかっており、のちの調査で毒薬の服用により死亡したことがわかっています。


問題のクリスタル・ダガーは、長さが約21センチで、側にはダガーに付いていたとされる象牙の柄(ページ上部参照)が見つかっています。
年代測定によると、ダガーが製作されたのは今から5000年前の紀元前3000年頃と判明しました。
その形状は、同地周辺で見つかっている他の石器と同じ形をしており、この地で作られたことがわかります。
ところが問題は、この地域では天然のクリスタルが産出しないことでした。
そのため、水晶は石器の材料として、遠方からはるばる運ばれてきたと考えられています。


専門家たちは「水晶が入手困難な鉱物であったことから、クリスタル・ダガーはグループの年長者、あるいは地位の高い人のために作られた特別な石器だったでしょう」と推測します。
実際、先史時代における水晶は、生命のシンボルや魔法の力を宿す石と見なされていました。
このダガーも実用のためでなく象徴的な意味合いをもっていたはずです。
論文内では「水晶の道具は製作に高度な彫刻スキルを必要とし、これはイベリア半島で発見された石器の中で、技術的に最も洗練された水晶石器のひとつです」と評されています。
参考文献
zmescience
ancient-origins
提供元・ナゾロジー
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