20世紀初め、人々がまだ放射能の恐さを知らなかった時代に、放射性物質が一種の薬として大流行しました。

人々は放射性物質を含む医薬品を服用したり、皮膚に塗ったりしたのです。

その犠牲者として最も有名になったのが、アメリカ人男性のエベン・バイヤーズ(1880〜1932)でした。

彼は全身の骨が溶けてしまうまで、放射性物質の入ったドリンクを飲み続けたのです。

「悪魔のドリンク」を薬と信じて飲み続けた結果…

バイヤーズな実業家の顔の他に、アマチュアのゴルフ大会で優勝するほどのスポーツマンでもありました。

端正なルックスも相まって、女性にモテたのは言うまでもありません。

5年間も放射性物質の入ったドリンクをキメてきた男、頭蓋骨に穴が空き「全身の骨が溶けて」しまう
(画像=エベン・バイヤーズ / Credit: en.wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

しかし、1927年のある日、列車の寝台で寝ていたバイヤーズは、床下に強く落下して腕を負傷。

このケガは仕事や運動のほか、性的な交際面でも彼に痛手を負わせました。

さらに、痛みが長く引かないことから病院に行ったところ、主治医のチャールズ・モイヤー医師から、あるドリンクを処方されます。

「ラディトール(Radithor)」と呼ばれたこの悪名高いドリンクは、アメリカ人薬剤師、ウィリアム・J・A・ベイリーにより作られたものです。

ラディトールは、放射性物質のラジウムとメソトリウムを水で希釈しただけの代物で、今日から見れば、明らかに危険きわまりない飲み物でした。

5年間も放射性物質の入ったドリンクをキメてきた男、頭蓋骨に穴が空き「全身の骨が溶けて」しまう
(画像=ラディトール / Credit: Sam LaRussa/Wikimedia Commons、『ナゾロジー』より引用)

ところが、バイヤーズがラディトールを飲んだところ、偶然なのかプラシーボ効果なのか、腕の痛みが完全に消え去ったのです。

それをラディトールのおかげと信じ込んだ彼は、この悪魔の飲み物に心酔し、毎日何本も飲み始めました。

また、ラディトールをケースごと買って、友人やガールフレンドに送り、自身の競走馬にも与えています。

バイヤーズ本人は、1年半で1,400本のラディトールを飲み干していました。

しかし、放射性物質は着実に彼の身体を蝕んでいたのです。

5年間も放射性物質の入ったドリンクをキメてきた男、頭蓋骨に穴が空き「全身の骨が溶けて」しまう
(画像=1920年代のバイヤーズ / Credit: en.wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

バイヤーズの体重は急激に減り始め、常に頭痛がするようになり、歯も抜け始めました。

1931年、調査当局はようやく放射背物質の危険性に気づき、バイヤーズに公聴会での証言を依頼します。

しかし、その頃にはもうバイヤーズは外へ出歩くことも困難になっていました。

伝えによると、「歯は6本の歯を除いてすべて抜け落ち、下アゴの骨がほぼ溶けてなく、全身の骨格も崩壊し、頭蓋骨には穴が開いていた」そうです。

そして1932年、51歳で亡くなったバイヤーズは、放射性物質が漏れ出さないよう、鉛の棺に厳重に納められました。

当時、バイヤーズの遺体を調べたところ、骨の中に36マイクログラムのラジウム(致死量は10マイクログラム)が検出されています。

彼の悲惨な死が、放射性物質を扱った医薬品産業の終焉につながりました。

5年間も放射性物質の入ったドリンクをキメてきた男、頭蓋骨に穴が空き「全身の骨が溶けて」しまう
(画像=放射性物質を含む「歯磨き粉」の宣伝広告 / Credit: Suit/Wikimedia Commons、『ナゾロジー』より引用)

一方で、ラディトールを作ったベイリーは、あくまでその安全性を主張し、自身も服用を続けました。

その結果、1949年に膀胱ガンで亡くなっています。

20年後に遺体を調査したところ、彼の身体は放射性物質にまみれており、まだ暖かいままだったそうです。


参考文献

The Man Who Drank Radioactive Juice Until His Bones Crumbled And His Jaw Came Off

Medicine: Radium Drinks


提供元・ナゾロジー

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