お年寄りが夜中に何度も目を覚ましたり、朝早く目が覚めてしまう原因が判明しました。

米国スタンフォード大学(Stanford University)で行われた新しい研究は、加齢にともない夜中に目が覚める原因となる神経細胞の異常をマウスで特定し、修正することに成功したと報告しています。

加齢にともなう睡眠障害(夜中に目が覚めるなど)は、マウスや人間など幅広い動物で発生する現象ですが、これまで原因は不明でした。

ですが今回の研究では「原因となる神経細胞の特定」「起きている異常現象の解明」「薬による治療」の全てがセットになって行われており、極めて価値がある内容となっています。

しかし、いったい何が原因で高齢者は「夜中に突然目が覚める」という奇妙な現象を起こしてしまうのでしょうか?

研究内容の詳細は2022年2月25日に『Science』にて掲載されています。

目次
夜中に突然目覚めるのはナルコレプシーの裏返しだった
脳細胞が過敏化して「覚醒信号の早漏」を引き起こす

夜中に突然目覚めるのはナルコレプシーの裏返しだった

高齢者が夜中に目覚めてしまう原因はナルコレプシーの逆転現象だった!
(画像=夜中に突然目覚めるのはナルコレプシーの裏返しだった / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

加齢にともなう睡眠障害は、誰もがいずれは経験することになります。

もっとも一般的にみられるのは、起きる時間でもないのに夜中に目が覚めてしまう症状(中途覚醒)です。

そして夜中の突然の目覚めが起こるとしばしば、再び眠りにつくのが困難になってしまい、睡眠時間の不足をまねきます。

この不思議な現象を説明する言葉としてよく耳にするのは「眠るにも体力が必要」との説です。

確かに、睡眠サイクルなど体のリズムを司る機能は、老化によって衰えていきます。

しかし睡眠と覚せいの現場となる脳内で、実際にどんな変化があって、夜中の目覚めを起こしているかは不明のままでした。

そこで今回、スタンフォード大学の研究者たちは、意外なアプローチを行うことにします。

研究者たちが注目したのは、日中に突発的な眠気を引き起こす「ナルコレプシー」でした。

「ナルコレプシー」と「夜中の目覚め」は全く無関係にも思えますが、両者にはともに需要と無関係な「突発性」という共通点が存在します。

ナルコレプシーは日中、睡眠時間が足りているにもかかわらず突発的な眠りに陥ってしまう症状です。

一方、加齢にともなう睡眠障害は睡眠時間が不足している状態にもかかわらず、夜中に突発的に目覚めてしまいます。

そのため研究者たちは、2つの症状が同じ現象の表と裏の関係にあるとの発想に至り、実証を行うことにしたのです。

稀な症状として知られる「ナルコレプシー」は、誰もが経験することになる「夜中の目覚め」と、本当に表裏の関係にあったのでしょうか?

脳細胞が過敏化して「覚醒信号の早漏」を引き起こす

高齢者が夜中に目覚めてしまう原因はナルコレプシーの逆転現象だった!
(画像=脳細胞が過敏化して「覚醒信号の早漏」を引き起こす / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

夜中に目が覚める現象はナルコレプシーの裏の顔なのか?

答えを探るため、研究者たちはまず、若い健康なマウスと年老いたマウスの睡眠状態を調べました。

すると老マウスでも人間の高齢者と同様に睡眠の断片化が起きていると判明します。

加齢にともなう睡眠の質の悪化は、人間でもマウスでも共通した現象だったのです。

(※一般的なマウスの睡眠時間は昼間です)

次に研究者たちは、マウスの脳細胞「オレキシンニューロン」の活性度を調べました。

オレキシンニューロンの働きは覚せい状態の維持に必須であり、このニューロンに重度の欠損がある人々は「ナルコレプシー(1型)」を引き起こすことが知られています。

もし老マウスの脳内でオレキシンニューロンが逆に過剰生産されていれば、ナルコレプシーと反対の睡眠中に突然目覚める現象が起こる原因となっているハズです。

ですが意外なことに結果は逆でした。

老マウスの脳内では「オレキシンニューロン」の数が増えるどころか、最大で38%も失われていたのです。

つまりオレキシンニューロンの数だけを考えれば、老マウスは覚せいに必要な細胞を失ったのだから、より眠りやすくなっているはずで、目覚めやすくなることはないはずです。

しかし脳科学において細胞の絶対数の少なさは、必ずしも活動量の低下に結びつきません。

実際、研究者たちが老マウスのオレキシンニューロンの電気的な性質を調べたところ、活性化の「しきい値」が大幅に下がっていたことが判明します。

(※カリウムイオンチャンネルが減少して十分な分極ができず、常に発火しきい値の近くにあった)

つまり老マウスの覚醒をつかさどる脳細胞は数こそ減っていたものの過敏状態になっており、ちょっとした刺激に対しても、脳に覚醒信号を発するようになっていたのです。

マウスと同じような仕組みが人間にある可能性は非常に高く、人間の加齢にともなう夜中の突然の目覚めもまた脳細胞の過敏化と「覚醒信号の早漏」によって引き起こされていると考えられます。

(※早漏はもともと射精障害を示す医学用語であり、侮蔑的な意味はありません)

ではもし、この「覚醒信号の早漏」を防ぐことができれば、夜中に突然目覚める逆ナルコレプシーもなくなるのでしょうか?